「どうして?お姉さんはお兄ちゃんより年上だし…」
山本さん夫婦のように子どもがいない場合は、どちらかが亡くなったとき、相続の権利は、亡くなった人の親やきょうだいにも及びます。
「ショックを受けた妻から話を聞いて、妹に〈うちからお前にやるものなんかないぞ〉と釘を刺したところ、きょとんとして〈どうして? お義姉さんはお兄ちゃんよりずっと年上だし、私はお兄ちゃんよりずっと若いし…〉と。もう、怒る気力もありませんでしたよ」
山本さんはうんざりした表情を見せました。
「私たちの財産は、私たちが築いたものであって、きょうだいはなにも貢献していません。血のつながりがあるだけで、財産形成に関わっていないきょうだいが相続できるというのは、ちょっと納得できないと思いまして」
山本さん夫婦は「全財産を配偶者に相続させる」との内容の公正証書遺言をそれぞれ作成することにしました。
きょうだいには遺留分の請求権がないため、山本さん夫婦の相続発生時には、配偶者に全財産をわたすことができます。
遺言書の作成が完了したあと、山本さん夫婦は安堵の表情を見せました。
「配偶者のきょうだいと遺産分割の話し合いのテーブルにつくのは、精神的にも厳しいですよね。お互い、まだまだ働くつもりですが、備えることができて安心しました」
お2人は肩を並べ、事務所をあとにしました。
遺言書を残さなかった場合の「リスク」とは?
子どものない夫婦の場合、いくつか留意すべき点があります。
●子どもがいない夫婦の相続人は、配偶者と親、あるいはきょうだいになる
●そのため、遺言書がないと配偶者が全部を相続することはできない
●遺産分割のために、夫婦の財産の内容をきょうだいに明らかにする必要がある
これらの点からも、やはり「遺言書」の作成は不可欠だといえます。それにより、きょうだいと話し合うことなく相続の手続きが行えます。なにより、きょうだいに財産の内訳を知らせなくてすむのです。上述の通り、きょうだいには遺留分の請求権がないことから、遺言書を残すことで、感情的なトラブルが起こるリスクも回避できるといえます。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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