【関連記事】平均給与「433万円」より厳しい…「日本人の現状」
相続税を心配し、現預金を積み上げる高齢者
最近では、多くの方々が相続問題を「自分事」の目線で考えるようになりました。筆者のような相続コーディネーターからすると、非常に喜ばしいことですが、多くの方が「誤解」していることがあります。
親世代の方々の場合、なによりも「現預金を重視している」という点です。子どもたちに多くの財産を残すべく節約に励み、なかには億単位の預金を保有している方もいます。みなさん口をそろえるように「これだけあれば相続税も安心」というのですが、手元に多額の現預金があっても、いまでは生活費の足しになる利息は得られず、また、「預貯金」状態の資産では、金融機関に預けてある残高がそのまま財産評価となってしまいます。なにより、被相続人が亡くなってしまったら、節税することはかないません。
多くの高齢者の方が預貯金を残すのは、相続税の心配ばかりでなく、老後子どもの迷惑にならないよう、老人ホーム等の入所を準備しようという気持ちもあるようです。少しグレードが高い老人ホームであれば一時金が数千万円のところも珍しくなく、なかには億単位の資金が必要な施設もあります。
とはいえ、だれもがそのような所へ入所するわけではありませんし、高齢化が進展している近年、施設の選択肢も増えています。
一般的な高齢者賃貸住宅であれば、入居時の保証金は数百万円でよく、また月々の費用も「家賃+食費+管理費等」で、だいたい20万円以内で収まります。このことから、老後の住まいのために生活を切り詰め、我慢を重ねて暮らす必要はないのです。
高齢の親を心配し、後見人をつけようとする子ども
生前の相続対策において、しばしば預貯金の整理・解約、不動産の売却・購入・活用が必要となりますが、これらはいずれも「本人の決断」があってこそ着手・実現できるという点も忘れてはなりません。
万一意思能力が低下して「認知症」と診断されれば、あらゆる契約ができなくなります。つまり、「打つ手なし」の事態を回避するには、なるべく早めの対策と行動が不可欠なのです。
また、子世代には「親が認知症=後見人が必要」と考える方も多く、兆候が見えるとすぐに手続きを進めてしまうケースもありますが、この点にも注意が必要です。
後見人は「財産の管理」が主な業務であり、相続税対策をすることはありません。むしろ、相続対策は被後見人のためにならないという立ち位置であり、ひとたび後見人を立てると、節税策の実行が困難になります。また、後見人はよほどの事情がない限り、原則として利用をやめることができません。そのため、制度の活用には熟慮が必要です。
一般的に認知症だと思う場合でも、多くは加齢による物忘れ程度の場合があり、医師により正式に認知症と診断をされていない場合では、公証人の面談により遺言書を作成することができます。
思い込みで判断してあきらめてしまう前に、専門家に相談のうえで判断し、対策をするようにしましょう。
親族間でトラブルがないのであれば、親の財産管理を後見人に任せなくても子どもたちが協力してすることでも問題はありません。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】