あなたにオススメのセミナー
素晴らしい体験は素晴らしいコンテンツ
■体験内容を明確化せよ
そもそも体験とは何なのか。くだらない質問に聞こえるかもしれないが、市場を見ればわかるように「体験型の小売り」の解釈が多岐にわたる以上、何らかの共通認識を持っておくべきだ。体験はサービスと同義と見る意見もある。店舗の美しさだという解釈もあれば、エンターテインメント性や遊びの要素に近いという見方もある。私ならもっと簡単な定義を披露できる。
■体験とはコンテンツである
小売りに関して味わう体験とは、突き詰めて言えば、特定の状況で私たちが受ける肉体的刺激、感情的刺激、知的刺激の総和である。視覚、触覚、味覚、聴覚、臭覚で受け取るものや、こうした要素が醸し出す気分が渾然一体となって、「体験」を生み出す。刺激の1つひとつは、実世界かデジタルかを問わず、コンテンツを構成する要素に過ぎない。
コンテンツに限らず何でもそうだが、買い物客としてこういったコンテンツに触れると、何らかの印象が残る。コンテンツが妥当で用意周到、説得力があり、感覚的に人を惹きつけ、うまく作り込まれていればいるほど、体験が長期記憶に深く刻み込まれ、その体験やその提供元であるブランドを思い出しやすくなる。コンテンツが感動的で飽きさせず、独自性があるほど、誰かに教えたくなる。
つまり、素晴らしい体験とは、平たく言えば、素晴らしいコンテンツなのである。
先にすべての企業は「体験企業」であり「体験ビジネス」であると書いたが、これは言い換えれば、すべての企業は「コンテンツ企業」なのだ。現時点であなたの会社がそうでないなら、それをめざすべきであり、グズグズしている隙ひまはない。パンデミック後の世界では、目的はポジショニングであり、コンテンツはそこに命を吹き込む最も有効な手段である。
■消費者に「特別な」体験をさせよう
コンテンツの重要性については、こんなふうに考えてみてはどうだろう。あなたのブランドがテレビCMを制作することになった。しかも、アメリカンフットボールのチャンピオンを決める「スーパーボウル」という1年で最高の視聴率が稼げるイベントで放映するCMだ。ただ、気がかりなことが1つだけあった。CMがどのような内容なのか、完全に把握している者は社内にひとりもいない。
なぜなら誰ひとりとして台本づくりに関わろうとしなかったからだ。しかも、出演者も急いで決めたため、ブランドの顔として適切かどうかの検討作業にも時間を十分にかけられなかった。おまけに、撮影セットは無計画にも急ごしらえで間に合わせ、制作スタッフによる事前打ち合わせもまともにしていない。
それでも、全米の視聴者が見守るなか、試合のハーフタイムにCMが放映される予定だ。あなたは気が気ではないだろう。
むろん、読者のみなさんが、こんな大失敗を犯すはずはないと思う。何しろ、ブランドの命運がかかっているのだ。全米が見守る大舞台で、ブランドの印象を左右するほどの重要な撮影セットをやっつけ仕事で造ってよしとしてしまう者がいるだろうか。