2022年度の年金額は0.4%減額。現役賃金の下落と痛み分け~年金改革ウォッチ 2022年2月号

2022年度の年金額は0.4%減額。現役賃金の下落と痛み分け~年金改革ウォッチ 2022年2月号
(写真はイメージです/PIXTA)

2022年1月21日、年金額の改定が発表されました。このような年金額の改定は、どのような仕組みで金額を決定しているのか、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏が解説します。 ※本記事は、ニッセイ基礎研究所の年金に関するレポートを転載したものです。

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    先月までの動き

    年金数理部会は、共済年金の2020年度の財政状況等について報告を受けた。年金広報検討会は、2022年4月開始予定の公的年金シミュレーター(公式)の開発状況等について報告を受けて議論した。年金事業管理部会は、日本年金機構の令和4年度計画の案について報告を受けて議論した。

     

    ○社会保障審議会 年金数理部会

    1月7日(第91回) 令和2年度財政状況(国家公務員共済組合、他)、その他

    URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131_00021.html (資料)

     

    ○年金広報検討会

    1月19日(第14回) 年金広報コンテストの結果、個々人の年金の「見える化」のための取組、他

    URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00028.html (資料)

     

    ○社会保障審議会 年金事業管理部会

    1月25日(第59回) 日本年金機構の令和4年度計画の策定、その他

    URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo59_00001.html (資料)

    ポイント解説:2022年度の年金額と次期制度改正への影響

    1月21日に年金額の改定が公表された。本稿ではその仕組みを概観し、次期改正への影響を考える

    ※ 年金額改定の仕組みの詳細は、拙稿「2021年度の年金額は、現役賃金と同様に0.1%の減額(前編)」を参照(1年前のレポートだが仕組みは同じ)。

     

    年金額改定の仕組み:本来の改定(実質価値維持)とマクロ経済スライド(健全化策)の合算

    現在の公的年金額の改定(毎年度の見直し)は、2つの要素から構成されている。1つ目は、物価や賃金の変化に応じて年金額の価値を維持するという、年金額改定の基本的な意義の部分である(以下では、本来の改定という)。これに加えて、現在は年金財政を健全化している最中なので、少子化や長寿化の影響を吸収するための調整(いわゆるマクロ経済スライド)も加味される。2022年度の改定では、本来の改定率が-0.4%で、マクロ経済スライドは特例に該当して次年度へ繰り越されたため、年金額の改定率は-0.4%となった(図表1)。

     

    [図表1]年金額改定ルールの全体像
    [図表1]年金額改定ルールの全体像

     

    (1)本来の改定率:現役賃金の下落と同じ-0.4%

    本来の改定率は、物価の変動率と賃金の変動率の組合せで決まる(図表2)。物価変動へ即座に対応するため、物価の変動率には前年(1~12月)平均の消費者物価指数(総合)の上昇率が使われる。2021年は年末にかけて物価が上昇したが、年平均は-0.2%となった。他方で賃金の変動率は、前年の物価上昇率と2~4年度前の実質賃金変動率との合計が使われる。急変を避けるために3年平均となっているが、今回はコロナ禍による2020年度の賃金下落が影響して-0.4%となった。この結果、2021年度の改正が機能し、年金受給者全体の本来改定率が現役賃金の下落と同じ-0.4%となった。

     

    [図表2]本来の改定率の仕組み
    [図表2]本来の改定率の仕組み

     

    (2)マクロ経済スライド:小幅ながら2年連続の繰越

    マクロ経済スライドは年金財政の健全化に必要な方策だが、本来の改定率がマイナスの場合には実施されない(図表3)。実施されなかった分は、以前の制度では実施されないままになっていたが、年金財政の健全化を進めるために2018年度から次年度へ繰り越されている。今回は、当年度分の調整率-0.2%に加えて前年度からの繰越分が-0.1%あったが、本来の改定率がマイナスだったため、両者を合わせた-0.3%が2023年度へ繰り越された。

     

     [図表3]マクロ経済スライドによる調整の仕組み
    [図表3]マクロ経済スライドによる調整の仕組み

     

    [図表4]近年の状況
    [図表4]近年の状況

     

    次期制度改正への影響:経済界等から調整繰越撤廃と調整完全適用の要望が高まる可能性

    2022年度の年金額は、コロナ禍による現役世代の賃金下落を反映して2年連続で減額されることになったが、それと同時に、少子化や長寿化の影響を吸収するための調整(マクロ経済スライド)も2年連続で繰り越されることになった。現時点の繰越は小幅であり、2021年度は2020年度と比べて賃金の水準が回復したことや昨年末から続く物価上昇などを考えれば、2023年度はある程度の調整が実施される可能性がある。しかし、仮に2023年度も調整が実施されなければ3年連続の繰越となり、繰越の撤廃と調整の完全適用を求める経済界等からの声が強まる可能性がある

    ※ さらに繰越が続いて繰越分が大きくなれば、物価が大幅に上昇した時に物価の伸びを大きく下回る率で年金額が改定される形になるため、政治的な論点となる可能性もある。

     

    経済界は、厚労省が2020年12月に公表した次期改革の素案と同様の方策に対して、2019年時点では慎重な姿勢を見せていた。2023年度の調整状況が、次期改革に繰越の撤廃等が盛り込まれるか否かを左右する可能性がある。

    ※ 社会保障審議会年金部会議事録(2019.10.09, 2019.12.25)からの推察。

     

     

    中嶋 邦夫

    ニッセイ基礎研究所

     

     

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    本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年2月1日に公開したレポートを転載したものです。

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