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コレステロールは「身体になくてはならない物質」
コレステロールと聞くと、悪玉、善玉という言葉を思い浮かべる人が多いと思います。悪玉コレステロールが高くなると、血管に付着して動脈硬化が進むということは聞いたことがあると思います。「では一体、コレステロールとは何なのか」ということになるとあやふやなのではないでしょうか。
実は、コレステロールというものは一つで、悪玉、善玉の2種類があるわけではありません。しかも、このコレステロールという物質は私たちの身体の60兆個の細胞の細胞膜を形成している、なくてはならない物質であると言ったら驚かれるでしょうか?
コレステロールについては正しく理解されていないことが数多くあります。今回は、コレステロールとはどういうものなのか、そしてコレステロールがどうやって動脈硬化につながるのかについて、最新の研究結果を含めて話していきたいと思います。
コレステロールが高いだけでは動脈硬化は起きない
■「コレステロールは動脈硬化の原因になる」と言われるようになった経緯
そもそもどうして「コレステロールが高いと動脈硬化の原因になり、心臓病リスクが高くなる」といわれるようになったのでしょうか? コレステロールが動脈硬化や心臓病の原因になるという説は「コレステロール仮説」といいます。1960年代に7ヵ国が共同で取り組んだ「7 Countries Study」という非常に有名な研究が公表されました。
しかしその後、この研究の問題点が指摘されていることは知らない人がほとんどではないでしょうか。医者の間でもよほどの専門でない限り、これが「仮説」であることすら知らない人が多いように思います。何が問題かというと、この共同研究に参加した一部の国では家族性高コレステロール血症の患者を対象に含んでいたことです。そのため心臓病の発症率を底上げしてしまい、コレステロールに対して過剰なリスクを上乗せしてしまったとされています。その上、コレステロール値と心筋梗塞の発症率に関連性があったのは2国だけで、特に日本ではまったく関連性が見られなかったのです(奥山治美らの研究より ※1)。
家族性高コレステロール血症の人は、遺伝的に若年のうちからコレステロールが高く、動脈硬化が進むので、若い年齢でも心臓病を発症します。このような患者が多く含まれていると、一般の人でのリスクが正確に判断できなくなるわけです。その結果、すべての人で「コレステロールが高いと動脈硬化の原因になり、心臓病リスクが高くなる」と結論されたのです。
さらに、動脈硬化が起こる機序が明らかになるにつれて、コレステロールが高いだけでは動脈硬化は起こらないことも分かってきました。動脈硬化とコレステロールとは無関係であるという研究結果も報告されるようになっています(※2)。
この論文では、
“今回の前向き疫学研究のメタアナリシスでは、食事の飽和脂肪酸が心血管疾患のリスク上昇と関連すると結論づける有意な証拠はないことが示された。”
と結論しています。
研究には様々なエビデンスレベルがありますが、メタアナリシスというのは一番信頼度の高いエビデンスレベルになります。
つまり、1960年代の研究をもとに主張されてきた「コレステロールは動脈硬化の原因になる」という「コレステロール仮説」は、現時点ではそのまま受け入れることができなくなっているということです。
※1 奥山治美
1939年徳島県生まれ。1968年東京大学大学院博士課程修了。名古屋市立大学薬学部名誉教授。日本脂質栄養学会初代会長。脂質と健康に関する第一人者として、「コレステロールは動脈硬化の原因にはならない」という内容を発信している。
『コレステロール医療の方向転換―緊急の課題』2005年125巻11号 p.833-852(https://www.jstage.jst.go.jp/
※2 Patty W Siri-Tarino 1, Qi Sun, Frank B Hu, Ronald M Krauss: “Meta-analysis of prospective cohort studies evaluating the association of saturated fat with cardiovascular disease”
Am J Clin Nutr. 2010 Mar;91(3):535-46.