がん、心筋梗塞、脳血管疾患…三大疾病の裏にある「知られざる元凶」【医師が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

近年、慢性疾患の発症には、「慢性炎症」が深く関係しているということが分かってきました。炎症には一時的に起こる「急性炎症」と、持続的に起こる「慢性炎症」の2つがありますが、いずれにせよ「炎症」とは、そもそも身体に存在しない“異物”を体外に排除しようとする正常な機能です。なぜ「止まらない炎症」が長期間にわたって治療が必要な慢性疾患を引き起こすのでしょうか? 慢性炎症の特徴と、それによって具体的にどんな病気が起こってくるかということについて見ていきます。※本連載は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師による書下ろしです。

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「止まらない炎症」が起こす負の連鎖

「一時的な炎症」と「ずっと起こり続ける炎症」の違い

急性炎症では、外から入ってきた病原体に存在する分子(PAMP ※1)が誘因となって免疫反応が発動し炎症反応が起こります。病原体が体外へ排出されると通常は収まるため、急性炎症は異物が排除されるまでの一時的な反応です。

 

一方、慢性炎症では、自分自身の身体の細胞の一部が、傷ついたり死滅したりするときに放出される分子(DAMP ※2)が誘因となって免疫反応が発動し炎症反応が起こります。そのとき、誘因となる異物は持続的に体内に存在しているため、炎症がずっと続くわけです。慢性炎症はブレーキがかからず、ずっとアクセルを踏み続けた状態になっていると言い換えると分かりやすいでしょうか。

 

※1 PAMP(pathogen-associated molecular pattern:病原体関連分子パターン)

文字通り、外から侵入してきた細菌やウイルスの表面に出ているタンパク質を指す。急性炎症で排除しきれない場合、慢性持続感染を起こすこともあるが、大抵は急性炎症で終わると考えてよい。

 

※2 DAMP (damage-associated molecular pattern:傷害関連分子パターン)

自分自身の身体の細胞が壊れたときに放出される分子を指す。DAMPでは、自分自身の身体の細胞の一部が、寿命が来たり傷害を受けて分解されたりしたときのかけらが残って炎症を起こす原因になる。

 

異物を排除するには「活性酸素の放出」が不可欠だが…

急性炎症と同様、慢性炎症においても、炎症の元凶は活性酸素です。活性酸素の放出が持続することで、細胞や組織がダメージを受け続けます。急性炎症においては、外から入ってきた異物がなくなると活性酸素の放出は止まりますが、慢性炎症では、活性酸素が持続的に体内に放出され続けます。

 

炎症が持続することで活性酸素が放出され、周りの細胞や組織の破壊が新たに起こります。すると炎症の誘因となる異物(DAMP)がさらに放出され、慢性炎症が持続する原因となるわけです。つまり今ある炎症が次の炎症を引き起こすという、歯止めがかからない状態になっているといえるわけです。

 

炎症によって、わたしたちの身体の細胞が壊されて死滅することを「壊死(ネクローシス)」といいます。少し余談になりますが、これに対して、炎症によってではなく、寿命の来た細胞が自分自身で死滅する場合があります。これを「アポトーシス」といいます。アポトーシスでは炎症が起こらないので、分解された細胞の成分が周りに放出されることはありません。そのためDAMPを放出せず、周りに炎症を起こすこともないのです。周りに迷惑をかけずに、きれいに死んでいくという状態です。アポトーシスについてはいずれ機会を改めて詳しく説明しましょう。

 

話を元に戻しましょう。このように慢性的に炎症が持続することで、組織の機能低下、組織の崩壊、繊維化が起こります。肺繊維症、腎硬化症、肝硬変症などは、このように身体の臓器に炎症が持続し繊維化が進んだ結果起こってくる臓器機能不全の病態であるといえます。繊維化というのは、炎症の成れの果てに、繊維に置き換わって、硬くなる状態のことです。戦場が焼け野原になって硬い地面が露出した状態をイメージしていただくと良いと思います。

がん、心筋梗塞、脳血管疾患…これらの大元に慢性炎症

では、このような慢性炎症が原因となって、具体的にはどのような病気が起こってくるのでしょうか。

 

現在、日本人の病気における死因は長い間がん、心筋梗塞、脳血管疾患(脳梗塞、脳出血)が上位3位を占めていました(2018年になって三位の脳血管疾患は老衰に置き換わりました)。

 

これらの疾患はこの慢性炎症が原因で起こることが分かっています。疾患別の炎症との関係については、この連載の中で疾患の各論を解説するところで詳しく見ていくことにしましょう。今は、死因の上位である三大疾病が実は慢性炎症を原因としていることを知っておいてください。

慢性疾患は「慢性炎症をいかに抑えるか」がカギ

慢性疾患を克服する鍵は、この慢性炎症をいかに抑えるかということに掛かっています。現在の標準的医療においては、このような観点から慢性疾患を見ることはありません。脳梗塞や心筋梗塞は動脈硬化によって血管が細くなって血栓でつまることで起こります。これに対しては、細くなった血管を拡げる治療を行ったり、血管が血栓で詰まりにくくなるように血液をサラサラにする薬剤を投与されたりします。脳出血は、先天的な動脈の異常を除けば、高血圧が原因になって起こるため、血圧のコントロールをすることが重要です。これも、動脈硬化が進んだ結果起こってきます。

 

しかしこれらの治療では動脈硬化を起こす原因である慢性炎症を抑えることにはならないのです。

 

これを氷山に例えるならば、水面の上で起こっているのが動脈硬化という状態で、水面下では慢性炎症がずっと起こり続けているといえます。機能性医学では、水面下の慢性炎症を抑えていくことによって、その結果起こってくる動脈硬化を防ぐという根本からの治療を試みます。

 

また、がんも慢性炎症が原因で起こりますが、標準的医療ではがんを早期に見つけて手術で取り去るか、抗がん剤や放射線療法で、がん細胞を殺す治療が行われます。これは、できてしまったがんをいかに身体から排除するかという治療であって、がんを起こさないようにする治療ではないのです。

 

残念ながら現在の標準的医療では、身体の土台の部分で起こっている慢性炎症をいかにして起こさないようにするかという視点がないのが現実です。

 

では、どうすればこの慢性炎症を抑えることができるのでしょうか?

 

 

機能性医学では、慢性炎症を抑え、慢性疾患が発病するリスクを軽減する治療を行います。機能性医学とは何かを一言で説明すると「さまざまな慢性疾患の原因となる土台の部分を整えていこうという、治療の新しい考え方」です。身体の土台が整ってくることで、慢性疾患を治すだけでなく、慢性疾患を起こさないようにすることさえ可能になるのです。

 

つまり、標準的医療で水面の上に起こっているさまざまな症状や病気を改善し、その間に機能性医学の立場から、水面下の土台の部分を整えていく。このような考え方の治療が理想的であると考えます。決して、どちらの治療法のほうが重要であるとか、どちらの治療法が間違っているとか、そういうことではないのです。それぞれが得意とする領域で最大限の努力をして、協力し合うことことが大切ではないでしょうか。

 

 

小西 康弘

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長

総合内科専門医、医学博士

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医
医学博士

天理よろづ相談所病院・京都大学消化器内科などで内科全般を研修し、消化器内科を専門とする。内科医として約20年病院勤務。現在は、小西統合医療内科院長として、機能性医学を柱とした統合医療の立場から診療に携わっている。

【小西統合医療内科HP:https://www.konishi-clinic.com/

機能性医学に関する情報をFBなどで発信しています。
下のリンク集をご参照ください。
https://lit.link/doctorKonishi

著者紹介

連載自己治癒力を高めるための機能性医学

自己治癒力を高める医療 実践編

自己治癒力を高める医療 実践編

小西 康弘

創元社

病気や症状は突然現れるのではなく、それまでの過程に、自己治癒力を低下させるさまざまな原因が潜んでいます。だからこそ、対症療法ではなく根本原因にまで遡って治療を行うことが重要なのです。 本書では、全人的な治癒を…

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