“コレステロールが高い”だけでは動脈硬化にならない。意外と知られていない「動脈硬化性疾患」の真因【医師が解説】

“コレステロールが高い”だけでは動脈硬化にならない。意外と知られていない「動脈硬化性疾患」の真因【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

コレステロールについて、世間では正しく理解されていない事実が数多くあります。たとえば「コレステロールが高いと、動脈硬化の原因になる」という認識は、まさにその筆頭と言えるでしょう。今回は、コレステロールとはどういうものなのか、そしてコレステロールがどうやって動脈硬化につながるのかについて、最新の研究結果を含めて話していきたいと思います。※本連載は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師による書下ろしです。

コレステロールが持つ「本来の役割」

このように、動脈硬化の主犯人としてずっと悪玉扱いされてきたコレステロールですが、現在では、それよりも問題なのは「慢性炎症」だということが分かってきました。そして、コレステロールの本来の役割が見直されてきています。コレステロールは悪者であるどころか、身体にとっては非常に重要な役割をしているのです。

 

たとえば甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモン、あるいはビタミンDが合成されます。さらに胆汁中に含まれる胆汁酸の原材料にもなります。肝臓で作られ、胆嚢に蓄えられた胆汁酸は胆汁の一部として十二指腸に分泌され、摂取した脂肪の消化吸収を助けます。他、コレステロールは細胞膜の材料にもなります(図表2)。

 

PIXTAより作成
[図表2]細胞膜の構造 PIXTAより作成

 

そして、身体の中でコレステロールが欠乏すると、これらホルモンやビタミン、胆汁酸が不足するだけでなく、細胞膜が脆弱(ぜいじゃく)化し、さまざまな細胞機能の低下が起こるのです。最近では、薬剤でコレステロールを下げすぎることにより脳出血などのリスクが高まるなどの弊害が認識されてきています。また、コレステロールが低いほど、癌になりやすかったりうつを発症しやすくなるというデータもあります(※3,4,5)

 

脳はその65%が脂質からできています。最近の研究では、心臓疾患の既往のない一般の人においては、コレステロールの値がある程度高いほうが、低い人よりも死亡率が低いということが分かってきました。

 

以上から、コレステロール自体は、私たちの身体が正常に機能するためにはとても重要な役割をしていると理解していただけたと思います。これまでは、誰もが疑うことのなかった「コレステロール悪玉論」はその根拠から見直す必要があることも分かってきました。

 

※3 T Svensson, M Inoue, N Sawada, H Charvat, M Mimura, S Tsugane, JPHC Study Group: “High serum total cholesterol is associated with suicide mortality in Japanese women”

Acta Psychiatr Scand. 2017 Sep;136(3):259-268. doi: 10.1111/acps.12758. Epub 2017 May 26.

 

※4 Harry Hemingway, Michael Marmot: “Psychosocial factors in the aetiology and prognosis of coronary heart disease: systemic reviews of prospective cohort studies.” BMJ 1999; 318: 1460-1467.

 

※5 A. A. Alsheikh-Ali, T. A. Trikalinos, D. M. Kent and R. H. Karas: “Statins, low-density lipoprotein cholesterol, and risk of cancer” J Am Coll Cardiol 2008 Vol. 52 Issue 14 Pages 1141-7

 

■ただし「例外」も。コレステロールを下げるべき「高リスクな人」とは?

ただし注意が必要なケースもあります。心臓疾患(狭心症や心筋梗塞など)の既往のある人では、コレステロールが高いと再び発作を起こすリスクが高くなることも確かです。それらの人は心臓に血液を送る「冠動脈」という血管にすでに動脈硬化が起こっています。身体の中で慢性炎症が起こり、LDLが酸化LDLに変わったことが原因のため、LDL自体の値を下げないと動脈硬化が進んで再発するリスクがあります。その場合はコレステロールを下げる治療をしっかりと行いながら、慢性炎症も起こらなくする必要があります。心臓疾患がある人では、LDLコレステロールの値が高いほど発作が起こるリスクが高いことは多くの研究から明らかになっています(※6)。きっちりと薬を飲んで治療をしましょう。

 

逆に、心臓疾患の既往がなく、慢性炎症が起こっていない場合は、コレステロールの検査値が高いというだけで、薬を飲む必要はないかもしれません。

 

心臓疾患の既往のある人と、既往がなく単に検査データでコレステロールの値が高いだけの人では分けて考えないといけないということです。コレステロールを巡る最近の議論を見ていると、心臓疾患のある人を対象としているのか、それとも一般の人を対象にしているのかが不明確なまま、議論が迷走していると感じられることもあります。

 

コレステロールの役割や動脈硬化の機序が分かってくるにつれて、検査値だけで薬を投薬していたことに対する「過剰な反省」から、「コレステロールは下げなくても問題がない。コレステロールを下げる薬は飲んではいけない」という論調の文章や出版物を目にすることが増えてきました。しかし、これはあくまで心臓疾患の既往がない人、身体に慢性炎症が起こっていない人に当てはまることです。現在、心臓疾患で治療を受けている人が、そういった情報をうのみにして、飲んでいる薬を急に止めることはとても危険です。

 

 

今回の記事でお伝えしたかったのは、動脈硬化の起こる機序を理解し、より根本的に身体を整えていく必要があるということです。慢性疾患の根本に「慢性炎症」があるということをご理解ください。そして、コレステロールについてはそれぞれのリスクに応じた治療も必要だということです。

 

次回は、この活性酸素はどのようにして身体の中に発生するのか、あるいは活性酸素を減らすためにはどうすればいいのかについて話していきましょう。

 

※6 Christopher P.Cannon: “Low-Density Lipoprotein Cholesterol: Lower Is Totally Better∗”

Journal of the American College of Cardiology Volume 75, Issue 17, 5 May 2020, Pages 2119-2121(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0735109720346398?via%3Dihub#bib1)

 

 

小西 康弘

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長

総合内科専門医、医学博士

 

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