“コレステロールが高い”だけでは動脈硬化にならない。意外と知られていない「動脈硬化性疾患」の真因【医師が解説】

“コレステロールが高い”だけでは動脈硬化にならない。意外と知られていない「動脈硬化性疾患」の真因【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

コレステロールについて、世間では正しく理解されていない事実が数多くあります。たとえば「コレステロールが高いと、動脈硬化の原因になる」という認識は、まさにその筆頭と言えるでしょう。今回は、コレステロールとはどういうものなのか、そしてコレステロールがどうやって動脈硬化につながるのかについて、最新の研究結果を含めて話していきたいと思います。※本連載は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師による書下ろしです。

■動脈硬化の原因は、コレステロールを運ぶ「LDL」が酸化すること

コレステロールが高いと、血管壁に付着して動脈硬化の原因になるというのは本当です。いくらコレステロールの値が高くても放っておいて大丈夫ということではありません。しかしコレステロールが高いだけでは動脈硬化は起こりません。動脈硬化は、コレステロールを運ぶLDLというリポたんぱく質が血液中の活性酸素によって酸化されることが原因で起こります。

 

では、このLDLとは一体どういうものなのかについてみていきましょう。

 

食物に含まれたコレステロールが腸管で吸収されて肝臓に運ばれるまで、または肝臓で蓄えられているコレステロールが末梢の組織に運ばれるまでには、血液の中を通らないといけません。コレステロールは「油」なので、水に溶けません。そのために、コレステロールを血液中に溶かして運搬する「トラック」が必要になってきます。

 

これが「リポたんぱく質」といわれるもので、分子構造の中に油に溶ける部分と水に溶ける部分とがあります。これを「両極性」があるといいます。そして、コレステロールをこのリポたんぱく質が取り囲むことによって、血液中に溶け込むことができるようになるのです。

 

リポたんぱく質の種類には以下のものがあります。

 

(軽い順に)

①カイロミクロン(カイロマイクロン)

②超低比重リポたんぱく質(VLDL)

③低比重リポたんぱく質(LDL)

④高比重リポたんぱく質(HDL)

 ※①②は主に中性脂肪を、③④は主にコレステロールを運ぶ。

 

[図表1]リポたんぱく質の構造

 

LDLコレステロールとHDLコレステロールの違いは、コレステロールを載せている「トラック」の違いです。LDLは肝臓から末梢組織に、HDLは末梢組織から肝臓にコレステロールを載せて運びます。つまり、LDLが高いほど、血液中のコレステロールの値が高くなり、HDLが高いほど血液中のコレステロールの値が低くなるのです。

 

このリポたんぱく質を作っているリン脂質には酸化されやすい不飽和脂肪酸が含まれているため、血液中の活性酸素などが高いと攻撃され、酸化の標的となってしまいます。

 

身体の中に慢性炎症が起こっている状態では、LDLが酸化され、酸化LDL(変性LDL)というものになります。酸化LDLは、血管壁を傷つけ、血管壁に沈着します。すると、身体にとっては異物と認識され、免疫細胞のマクロファージが働き、酸化したLDLを見つけてどんどん食べていきます。しかし完全には消化することはできないため、最後にはパンパンに膨れ上がって死んでしまいます。その残骸(ざんがい)がプラークと呼ばれる粥(かゆ)状の物質となって血管壁にたまり、動脈硬化を引き起こすのです。

 

つまり動脈硬化の原因は、トラックに載せた荷物(コレステロール)ではなく、トラック自体(リポたんぱく質)にあるということです。

 

では慢性炎症が起こっているかどうかを調べるにはどうしたらいいのでしょうか。可能ならば血液中の活性酸素の状態を調べる方法としては、「酸化ストレス」を測定する方法があります。しかし、この検査はどこの病院でもできるわけではありません。普通の病院で調べる方法としては、高感度CRPという、炎症によって増える物質を調べる検査があり、保険適応にもなっています。また保険診療の対象外では、血管壁を傷つけ動脈硬化を起こすホモシステインというアミノ酸の一種を調べる検査もあります。この二つの検査方法は、動脈硬化のリスクを知る検査として知られているので、動脈硬化が気になる方は主治医と相談して調べてみるといいでしょう。

 

まとめると、動脈硬化は身体の「慢性炎症」によって生じた異物(この場合は酸化LDL)を除去しようとして起こった正常の免疫反応によるものなのです。血液中にLDLが高くても、酸化していない限りはマクロファージからは「異物」として認識されないため、動脈硬化は起こらないというわけです(【⇒関連記事:『がん、心筋梗塞、脳血管疾患…三大疾病の裏にある「知られざる元凶」』】)。

 

心筋梗塞の既往のある患者を対象とした 大規模な臨床試験で、炎症性サイトカインの働きを抑える薬を投与したところ、その後の心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが非投与群に比べて15%ぐらい減ったという報告があリます。

 

また、抗酸化療法、抗炎症療法で動脈硬化が自然退縮するという報告もあり、動脈硬化の根底に慢性炎症が深く関連していることがわかっています。動脈硬化が原因で起こってくる病気や症状にではなく、その根本的原因に焦点を当てて、解決する治療法を行うという意味で、機能性医学の持つ意義は大きいのではないかと思います。

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自己治癒力を高める医療 実践編

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