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日本人の死因第1位は「がん」。今や2人に1人がかかる
がんという言葉を聞いただけで、身体に力が入ってしまう方もいるのではないでしょうか。一生のうちで2人に1人はがんになる時代といわれています。「自分もいつかがんになるのではないか」という不安感を持っている人も多いでしょう。
国立がん研究センターの最新統計によると、2018年に新たにがんと診断された人は約98万人(男性約56万人、女性約42万人)です。日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、2018年データによれば男性65.0%、女性50.2%とおよそ2人に1人となっています。日本人ががんで死亡する確率は、2020年のデータによれば男女合わせて26.7%です(図表1)。
死因別死亡率で見ると1981年以降、ずっと死亡原因の1位を占めています(図表2)。
こういう図を見ると、自分もがんにかかるのではないかという不安感はいっそう強くなると思います。そしてそれは抵抗できない「運命」のような気さえしてくるのではないでしょうか?
しかし、それは本当か? というのが今回の記事の趣旨です。
がんができるまでの道のりを細かく見ていくと、必ずしも「避けられない運命ではない」ということが分かってきます。その理由を論理的に見ていくことにしましょう。この記事を読んだ後で、がんになる恐怖から少しでも解放される方がいれば幸いです。
なぜ、がんを発症してしまうのか?
■がんは「突然発生するものではない」と分かってきた
がんになる原因はたくさんあり、ひと言で説明することはできませんが、身体の中に突然がんができるのではないということは分かってきました。
がんの発生については、「多段階発がん説」が一番有力だとされています。最初は発がん物質などによって遺伝子が傷つけられることから始まります。しかし、遺伝子の障害がそのままがんになるわけではありません。「イニシエーション→プロモーション→プログレッション」という少なくとも三つの段階を経てがん細胞が発生し、進展、増殖していくのです。
イニシエーションの段階では、身体の外から入ってきた発がん物質が作用して直接DNAを傷つけることから始まります。一昔前まではこの段階ですぐ、がんになると考えられていました。しかし現在は、イニシエーションを通過したすべての細胞ががんになるわけではないと分かっています。DNAに傷害を受けた細胞は、いわば「がん〈もどき〉」の細胞であり、通常はこのような異常細胞は身体の修復機能によって排除されます。この段階でかなりの数のがん〈もどき〉細胞は淘汰(とうた)され、すべてががんに変わるというわけではないのです。
それをすり抜けた一部の細胞が次のプロモーションのステップに進みます。この段階で起こっていることはまだまだ解明されておらず、ブラックボックスのような部分が多くあります。しかし、活性酸素が大きな要因となっていることは確かです。これまでに分かっていることを簡単に説明すると以下のようになります。
これまでは、遺伝子に異常が起こるとすぐに異常なタンパク質が作られ、そのまま病気になると考えられてきました。しかし、分子生物学、遺伝子生物学が進むにつれて、そうではないと分かってきました。
現在は、ある病気が起こるのに「遺伝子の影響は約3割、遺伝子を取り巻く環境(エピジェネティクス)が約7割」といわれています。ある遺伝子が発現されるかどうかは、遺伝子そのものの性質よりも、それを取り巻く環境の影響を大きく受けて決まるのです。発がん物質が身体に入ってきてDNAが傷害されたことで、すぐにがん細胞ができるという単純な図式にはならないということです。
エピジェネティクスについては、別の回で詳しく説明しますが、ここでは、遺伝子がどのタイミングで読み取られ、どのタイミングで読み取られないかを決めるスイッチのようなものだと理解してください。そのスイッチがオン、オフになるタイミングが狂うことで、がん〈もどき〉細胞が、がん細胞になってしまいます。この遺伝子のスイッチのオンオフのタイミングを大きく狂わせてしまう一番の原因が「活性酸素」なのです。
しかし、それですぐにがんになるわけではありません。これは、まだ1個のがん細胞が身体の中に発生したという段階です。1個のがん細胞と、私たちが通常「がん」ととらえるがん組織とは違います。私たちの身体にはプロモーションのステップを経由したがん細胞が、毎日3000~6000個できるといわれています。私たちの身体の中では毎日1兆個の細胞が新しくできて入れ替わっていて、がん細胞になるのはその中の0.005%なのです。そう考えるとエラー率は恐ろしく低いということがわかると思います。こうしてできた「不良品」としてのがん細胞ですが、普通は身体のがん免疫細胞によって死滅させられます。私たちの身体には、発生したばかりのがん細胞を排除するシステムがきちんと備わっているのです。
がん免疫をすり抜けたごく少数のがん細胞が、プログレッションという最終ステップに進み、目に見える形のがん組織になります。発がん物質がDNAを障害させてから、目に見える形の「がん」になるまでには、このようにかなりたくさんのステップを通過しないといけないのです。これら多くのハードルを越えるのには数十年もかかるといわれています。
つまり、まとめると
①発がん物質が身体の中に入ってきたからといって、すぐにがんになるわけではないということ。
②活性酸素が高くなったからすぐにがんになるわけではないということ。
③がん細胞が身体にできたからといってすぐにがんになるわけではないということ
がいえます。
がんができる最初のスイッチが入ってから、画像診断などで分かる状態になるまでにはかなり長い年月がかかり、それまでにクリアしなければいけない条件が数多くあるということです。
■「がんの発症リスク」を分析すれば「発症させない取り組み」ができる
このことを予防医学的な立場から見ると、がん細胞ができてから肉眼で確認できるがん組織になるまでの間に、身体のバランスを見直して、整えることでがんにならなくても済む方法はたくさんあるということです。
以上から、がんを予防するために重要だと考えられるのは、
①発がん性のある物質をできるだけ身体にためないようにする
②活性酸素が身体に過剰に発生しないようにする。そのためには慢性炎症を起こさないようにする。
③がんに対しての免疫機能が低下しないように身体のバランスを整える。
ことだといえるでしょう。
このように、がんになる要因を一つ一つチェックして除いていくことで、リスクをかなり減らせるというのが、機能性医学の考え方です。
がんがあるかどうかビクビクしながら検診を受けたところで、がんを予防することはできません。早期発見、早期治療が一番の予防医学といわれていますが、すでにがんになってからでは、本当の予防医学とはいえないと思います。
大切なことは、がんになる前にリスク要因を分析して、がんになりにくい(絶対に「ならない」とはいえませんが)条件作りをすることです。
小西 康弘
医療法人全人会 小西統合医療内科 院長
総合内科専門医、医学博士
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