どれほど景気が良くなっても、失業率はゼロにならない
景気が拡大を続けると、失業率は低下しはじめます。そのまま順調に低下していきますが、ある程度低下すると下がりにくくなり、下がらなくなってしまいます。企業が求人しても応募がない、という状態になるからです。
失業率はゼロにはなりません。なぜなら、雇いたい人と雇われたい人の条件が異なるからです。たとえば、田舎で親の介護をしながら働きたい人が仕事を探していても、都会での求人は埋まりませんから、雇用は増えず、失業者は減りません。こうした「雇用のミスマッチ」を除いた実質的な失業率がゼロになると、それ以上は失業率が下がらないわけですね。
それ以外にも、一時的な失業というのもあります。転職希望者が辞表を出してから次の仕事が見つかるまでの間などです。配偶者の転勤に同行する人が仕事をやめて転居先で仕事を探す場合なども含まれますね。
「景気悪化→失業率即上昇」とはならないワケ
景気が後退しはじめると、失業率は上昇するのが普通ですが、これも時間差が伴う場合が多いでしょう。企業は生産量が減っても社員の残業を減らすのが先で、従業員数の削減はしばらく待つのが普通だからです。
企業が人員削減をする場合には、正社員は解雇するのが難しいので、非正規労働者から解雇するわけですが、解雇された非正規労働者は次の仕事を探しても無理だと判断すると、仕事探しを諦めてしまうので、なかなか失業率は上がらない、といったこともあるかもしれませんね。
少子高齢化で、失業率の動きが変わるかも?
今後については、失業率が変化しにくい時代となるかもしれません。理由は2つ考えられます。
ひとつは、少子高齢化により労働力不足の時代が来た場合、好況期は猛烈な労働力不足になり、不況期でも少しばかりの労働力不足に止まることで、「不況期でも失業が増えない」状況になるかもしれないからです。
もうひとつの理由は、少子高齢化によって「需要が安定し、景気の波が小さくなる」ことが考えられます。消費者に占める高齢者の比率が上昇すると、需要が変動しにくくなりますから。
高齢者は年金生活者が多いので、景気と関係なく消費します。生産者の方も、高齢者向けのサービスに従事する人が増えますから、彼らの所得は景気に影響されず、したがって彼らの消費も景気に影響されない、というわけです。
極端な話、現役世代が全員で高齢者の介護をしていれば、景気の波も失業率の変動もほとんどゼロになるわけです。もちろん、実際にはそんなことにはならないわけですが(笑)。
今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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