(※写真はイメージです/PIXTA)

深夜、老人ホームで入居者の病院への緊急搬送で家族を病院に呼び出すケースがあります。特に軽症のときに起きがちなのが「なぜこの程度で病院に連れて行ったのか」というクレームです。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で、トラブルの要因を解説します。

なぜ病院に連れて行かないのかというクレーム

しかし、です。多くのケースでは、「夜間、急に状態が悪化した。主治医に連絡すると、救急搬送の指示が出たので救急車を呼んで病院へ。当然、マニュアル通り、家族に連絡」という流れになります。

 

しかし、家族側の考えとしては、主治医が大変だという判断で救急車を呼んだのだから、「何ともない」「ホームに帰ってください」という結論はないということになります。当初の「何ともなくてよかった」という考え方が、徐々に「何ともないのに、わざわざ救急搬送などするなよ」という怒りに変わってくるのです。

 

ここで、前に記したようなクレームに発展します。しかも、同じようなことが複数回続くと、家族側は「いい加減にしろよ」ということになるのです。

 

また、入居時に老人ホームとの間で「万一、親の容態が急変した場合は、病院搬送はせず、ホーム内で静かに看取ってほしい」という内容の書面を取り交わしているケースも最近では多くなってきました。しかし、ホーム側の立場で言うと、人の気持ちなど、ころころ変わるのが普通ですから昨日今日の意思表示であれば、考えることもありませんが、その意思表示が半年前、1年前のものであれば、「今では、もしかすると気が変わっていてもおかしくない」と考えるのが普通です。

 

ちなみに、私の経験では、母親に対する息子さんの多くは、気が変わります。急変時に「何もしないということになっていますが、どうしますか?」と確認すると、ほぼ100%の息子さんは、病院に搬送してほしいと、言ってきます。看取りの同意書があるからといって、そのまま看取りにしようものなら、大問題になってしまいます。半面、娘さんは、気が変わることは少ないように思います。いざと言う時、男性はうろたえ、女性は動じない、ということだと思っています。

 

また、次のようなケースも老人ホームでは散見されます。それは、些細なことでも病院に連れて行かないと許してくれない家族がいる、ということです。世の中には、そういう考えの人も一定数いるのです。こんな軽症で、どうしてわざわざ病院に連れて行ったのか! その料金はホームで支払え! という話ではなく、それと真逆で、どうして病院に連れて行かなかったのか! というクレームです。

 

誰にどう確認しても、この程度のことで病院受診は必要ない、という状態であっても、病院に連れて行ってほしいという家族もいるのです。もちろん、そう願う当人もすぐに病院に行きます。私も何度もこのよう場面に遭遇しましたが、そのたびに、なぜ、この人は親を老人ホームに預けているんだろう。こんなに大切に親のことを考えているのであれば、老人ホームになど入れずに、自分の家で面倒を見たほうが良いのではないか? という感想を持ったことを覚えています。

 

話を戻します。多くの老人ホームでは、連れて行って怒られるのと、連れて行かなくて怒られるのと、どちらがあとあと、ダメージが少ないのかを考え、「連れて行く」という選択肢を優先させます。この部分は、ホームの問題というよりも、平気で馬鹿馬鹿しいことを言ってくる家族側にも大いに問題があると、私は考えています。少数とはいえ、馬鹿馬鹿しく理不尽なことを言ってくる家族がいれば、ホームの介護職員は、すぐに委縮し、最悪のことを考えて、オーバーに行動するということを理解してほしいと思います。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

 

※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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