(※写真はイメージです/PIXTA)

全国の中小企業家同友会が推進している「経営指針成文化」運動で、「労使対等」という考えが受け入れられず脱会せざるをえない会員がいるという。なぜ「労使対等」を大切にしているのか、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)で明らかにします。

「同友会をどうゆう会にすればいいのか」

このように同友会も世の多くの中小企業団体同様、すべてが順調に前進していったわけではない。『中同協40周年記念誌』は、「(各同友会は)『日本経済の真の担い手は中小企業である』との高い志の下、中小企業発展と社会的地位向上のため、各地で活動を展開するが、『共通化した目的の成文化』はその後のことになる」と記している。同友会も中同協も当初は組織として未成熟だったと言ってよい。

 

しかし、歴史の風雪を経て同友会の理念は次第に以下の3つにまとめられていき、最終的には1990年の中同協第22回定時総会で明確化される。第1が「三つの目的」、第2が「自主・民主・連帯の精神」、そして第3が「国民や地域と共に歩む中小企業」である。

 

まず第1の理念「三つの目的」だが、『中同協30年史』などによれば、73年の中同協第5回定時総会で採択されたもので、当時、北海道同友会の事務局長だった大久保尚孝氏が委嘱され、作成した「同友会の生いたちと展望」という文章に盛り込まれたのが最初である。

 

中同協元会長の田山謙堂氏は誕生の経緯を、「中同協ができるまでの間、各同友会が年に一回くらい全国代表者会議を続けていた。その中で未加盟の経営者に同友会活動に関心を持ち、加入してもらうには確信をもって説明できる理念、スローガンが必要ではないかという論議が浮上してきた。『同友会をどうゆう会にすればいいのか』という論議です」とユーモア混じりに語っている。

 

そうした過程で生まれた「三つの目的」はまず「ひろく会員の経験と知識を交流して企業の自主的近代化と強靭な経営体質をつくることをめざす」を掲げ、「よい会社をめざす」と要約されている。次いで「中小企業家が自主的な努力によって、相互に資質を高め、知識を吸収し、これからの経営者に要求される総合的な能力を身につけることをめざす」を挙げ、「よい経営者になろう」という言葉にまとめられている。

 

ただしこの項については、運動のリーダーだった古手の人たちから経営者の資質を論議することに疑義が出されたこともあったと言われる。3番目には「他の中小企業団体とも連携して、中小企業をとりまく、社会・経済・政治的な環境を改善し、中小企業の経営を守り安定させ、日本経済の自主的、平和的な繁栄をめざす」と述べ、「よい経営環境をめざす」と要約されている。

 

同友会はこれらの目的の実現を目指す集団であり、「三つの目的」はそれゆえ「相互に関連し、密接なつながりをもっている」と同友会内では認識されている。ともかく、会勢拡大のメルクマールとなったことは間違いない。

 

第2の理念「自主・民主・連帯の精神」は、「現在、すべての都道府県に同友会が存在し、4万5000名を超える組織にまで成長できた要因としては、自主・民主・連帯の精神にもとづく会運営に徹してきたこと」(役員テキスト『同友会運動の発展のために』)と指摘されるように、組織躍進の原動力であるとともに、「三つの目的」の土台となるものとされている。

 

先の『40周年記念誌』は、「自主・民主・連帯の精神」という理念が同友会の前身とも言うべき全日本中小工業協議会(全中協)の綱領にある「官僚統制その他独善的支配を排除し」「民主的全国組織の完成をめざす」や、日本中小企業家同友会の設立趣意書に盛られた「中小企業家の、中小企業家による、中小企業家のためのもの」といった考えを引き継ぎ、それに77年に開かれた東京同友会第24回定時総会におけるスローガン「研鑽と連帯そして繁栄」から連帯が加わり、まず東京同友会で用いられ、やがて全国に広がり、90年になって同友会理念として定式化されたとする。

 

ちなみに「自主」とは概略、「会の主体性を守ること」「会員の自発的参加を基本とすること」であり、「民主」とは「ボス支配が起らないようにする」「企業内では、民主的なものの見方や考え方を積極的に広めていくこと」だとされる。「連帯」は会内では「(会員同士が)高い次元でのあてにしあてにされる関係」をつくり上げることを、対外的には「あらゆる階層の人たちと手をとりあっていくこと」を意味している。

 

第3の理念「国民や地域とともに歩む中小企業」は、オイルショック直後の74年、中同協と東京同友会が「私たちは、便乗値上げ売りおしみ等の悪徳商人にはならない」との声明を発表したことに端を発している。

 

その後、変遷を経て、91年の規約前文において「中小企業家同友会は、中小企業の繁栄をはかることにより、地域社会と日本経済の発展に寄与し、かつ中小企業の社会的地位の向上をめざす」と明示し、『中同協40周年記念誌』はそのことをもって、「同友会運動が中小企業家という特定の階層の要求実現から地域と日本経済全体の発展の責任を担うという全国民的立場を明確にした」としている。この視野の広さも同友会の特長であろう。

 

いかなる個人も法人組織も、誕生時以来の歴史を抱えている。同友会組織の場合、全中協、日本中小企業家同友会を経て、各地に同友会が誕生、中同協に加わるという形で全国運動として広まった。淵源となった全中協は47年、まさに戦後混乱の真っただ中で誕生し、それゆえ先にも触れたように戦後民主主義とそれが内包する理想主義、自由主義、平和主義の鮮烈な影響を身にまとっていたように見える。同友会にもその思潮は受け継がれており、「三つの目的」の3番目の項目や、第2の理念「自主・民主・連帯の精神」などに端的に表れているといってよい。

 

次ページ注目すべき中小企業家同友会の設立趣意書

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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