あなたにオススメのセミナー
患者が住み慣れたまちで最期まで生きる
開業の地である所沢市の高齢化率は25.6%と全国平均の26.6% よりも下回っているものの、75歳以上の後期高齢者人口は2015年から2020 年では1.33% 増加しており多くの問題を抱えている(内閣府,2019)。独り暮らしや老々介護のお年寄りが多く、外出が難しい方が年々増えている。これらに対応するために、始めはクリニックへの無料送迎等によるサービスを提供していた。
しかし、それでも体力的にクリニックに来られず、受診できない患者が増えてきていた。そこで取り組んだことが在宅医療である。間嶋院長は、在宅医療の取り組みは、地域とともに人々が支えあい生きていく「まち」をつくることだと語る。
そのアイディアは豊富であり、次々と新しい展開をみせている。わかさクリニックは、医療と介護、まちづくりを一体化させたサービスを実現するため、「外来診療部門」「在宅医療部門」「地域貢献・地域連携活動」を3本の柱として、患者が住み慣れたまちで最期まで生活できるような仕組みを構築している。
■在宅医療の土台である外来診療部門
まずは、「外来診療部門」の概要を示す。この外来診療と在宅医療の連携が、大規模な在宅支援システムを支えている。標榜する診療科は多く、一般外来は、総合診療科をはじめ、内科、外科、皮膚科、整形外科、循環器内科、消化器内科、神経内科、泌尿器科、がん治療・緩和ケア科、物理療法・リハビリテーション科が設置されている。特殊外来では、禁煙外来、痛風外来、ボツリヌス治療外来、睡眠時無呼吸症候群外来、褥瘡(床ずれ)外来、AGA(男性型脱毛症)が行われる。
一般的に患者は、最初の受診で自分の病気が何かわからないケースが多い。どの科にかかったらよいかわからない初診の患者を総合的に診察するため、総合診療科が設置されている。患者は総合診療科を受診後、適切な診療科で診察を受ける。総合診療科は大学病院等ではよく設置されているが、診療所では珍しい取り組みである。病状や障害によって通院が難しい患者は、スムーズに在宅医療に切り替える。
皮膚科では美容皮膚科も行われている。これは、一般の方を対象とするだけではない。高齢者の方の、いくつになっても健やかで美しくいたい思いに応えられるよう、最新の医療用美容機器を取りそろえ美容と健康の肌外来が開設されている。
診療体制は患者の利便性を考慮し、一般外来は診療所として異例の365日無休で昼休みがない、1日を通した外来診療が行われる。在宅医療では、夜間診療を含め24時間体制で在宅患者のケアを担う。
アクセスは、最寄り駅の狭山ヶ丘駅からクリニックまで徒歩10分程度であるが、高齢者の足を考えて駅から診療所までの定期運航便をはじめ、自宅と診療所間の無料送迎が行われている。無料送迎は家族も利用可能であり、患者にとり便利で利用しやすいサービスと、それを支える体制が整えられている。この体制を支える従業員は、常勤医師5 人、非常勤医師64人、スタッフは正職員、パートを合わせて300人の大規模診療所である。
診療は出身大学のネットワークを最大限活用し、代診を含めて大学病院や専門病院から専門医を招き専門性を高めている。ウェブサイトのスタッフ欄には、非常勤として勤務する同大学出身者の医師が名前を連ねる。大学病院とのネットワークや連携は患者の安心感を生んでいる。
クリニックの在り方を伝える手段は、ウェブサイトが大きな役割を担っている。診療所のウェブサイトは簡素化されたものが多いが、わかさクリニックのウェブサイトは、間嶋院長やスタッフの熱い思いを伝える重要なツールとなっている。ウェブサイトは、「私たちの想い」から始まり、「ブランドストーリー」が示されている。職員採用ページでもスタッフの想いがつづられている。これらは工夫がなされており、間嶋院長やスタッフの思いが伝わってくる。
杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長