(※画像はイメージです/PIXTA)

コロナ禍により、ホテル・旅館業界は大変なダメージを受けています。「あの老舗旅館が倒産!」などと報道されるたび、寂しく残念な気持ちになってしまう人も多いと思いますが、じつは、一般の人が抱くような「組織を畳んで解散する」ことばかりが倒産ではないのです。ホテル・旅館業を専門に扱う弁護士の佐山洸二郎氏が平易に解説します。

「民事再生」の目的と、具体的な手続き

では実際に、「民事再生」はどのような手続きをするのでしょうか?

 

まずは、裁判所の説得から始まります。裁判所に再建計画などを提出し、「こういった事情でリスタートできる材料があるから、会社を畳むのではなく続けさせてほしい」と、事情を説明するのです。

 

説明のために訪れるのは主に裁判所ですが、「会社を続けてもいいよ!」と許可を出すのは「債権者」です。もちろん、債権者向けの説明会や、債権者への個別訪問を行って事情を説明することもあります。なお、債権者とは、ホテル・旅館にお金を支払ってもらう権利を持っている人のことです。具体例としていちばんわかりやすいのは金融機関でしょうか。
 

一般的に、企業は金融機関から運転資金等を借りて会社を運営しています。したがって、会社にお金を貸している金融機関(債権者)の許可を得る、という手続きをとります。

 

民事再生をするには、裁判所に「民事再生申立書」という書類の提出が必要です。ほかにもさまざまな必要書類はありますが、この「民事再生申立書」こそ、裁判所に対して民事再生の手続きを開始してほしいと説得・交渉するための書類です。なお、「民事再生申立書」は、普通は会社から依頼を受けた弁護士が作成します。

 

それに加え、具体的にどのように再建・再生してくのかプランを示した「再生計画案」という書類も提出します。いまいくら借り入れがあり、これからどういうペースで返済するのかといった計画を記した「資金繰り表」も添付します。それにより、経営上の再生計画に加え、具体的なお金の動きも示し、裁判所や金融機関をはじめとする債権者に説明していきます。

 

これらの必要書類は弁護士が中心となって作成しますが、資金繰り表等の会計関連の書類作成は、公認会計士や税理士といった数字のエキスパートの手を借ることになります。

 

これらの書類を揃えて民事再生を申し立てても、明日明後日に結論が出るようなものではありません。だいたい半年から1年間程度かかる、長丁場の手続きです。

 

半年から1年といっても、あくまで裁判所が検討する期間であり、実際には、裁判所から民事再生の許可が出たあとも、計画に従って経営を続けて再建を図っていきます。その意味では、「これで終了」といった明確なラインはないといえるかもしれません。

 

もっとも法律上は、裁判所に提出した再生計画案がおおよそ実行できれば、「民事再生完了」「再建完了」という状態となります。

 

民事再生の手続きが成功すれば、つまり、債権者の許可が得られて具体的な再建案を示すことができれば、破産のように会社を畳むことなく、会社を維持して再び経営を続けていけるようになります。

 

日本には、伝統あるホテルや旅館がたくさんあります。長い歴史のなか、人々にずっと愛されてきたホテルや旅館が、コロナ禍によるほんの1、2年の経営悪化のために破産するのは、本当にもったいないことです。

 

それを回避するためにも、コロナ禍での苦しい経営を乗り越え、再建に向けた「民事再生手続き」を選択するのは、非常に意味のある方法だといえます。そして、民事再生手続きを選択して頑張っている経営者もたくさんいるのです。

 

「倒産」という言葉には、暗くてつらいイメージが付きまといますが、「とりあえず整理し、将来に向けてがんばる」という、前向きで明るい意味を持つものもあるのだと、ぜひ知っていただきたいと思います。

 

佐山 洸二郎
弁護士法人横浜パートナー法律事務所 

 

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