(※画像はイメージです/PIXTA)

「温泉権」とは、温泉を引く・掘る際に必要な権利で、日本国内に無数にある温泉地の宿泊施設等では、この権利によって温泉を引き、ビジネスを展開しています。ところが不思議なことに、法律の文面にはこの「温泉権」についての記載は一切登場しません。果たして「温泉権」とはどのような成り立ちの権利なのでしょうか。ホテル・旅館業を専門に扱う弁護士の佐山洸二郎氏が解説します。

温泉を引く&掘るための「温泉権」は、不思議な権利

みなさんは「温泉権」という言葉をご存知ですか? 「温泉権」とは読んで字のごとく、温泉を引いたり掘ったりするために必要な権利です。

 

温泉法やそれにまつわる関連法など「温泉まわり」の法律はいろいろあるのですが、実は「温泉権」という言葉は、どの法律のどの条文にも一切記載されていません。

 

そのため「温泉権」とは、法律上で細かくルールが定められていない、曖昧で不思議な権利なのです。

 

法律で細かく定められていないと聞けば、「では、一体どんなルールになっているのか」という疑問が浮かんできますが、実際のところの温泉権は、各地の温泉地の慣習に委ねられている部分が大きい、といわれています。

慣習法に基づく温泉権は、各地の慣習に委ねられている

「慣習に任せてしまって大丈夫なのか?」と驚く方も多いのではと思いますが、そもそも法律には「慣習法」という考え方があります。

 

「国会で審議される→法律ができる→六法などに掲載される」…といった文章化された法律、すなわち「成文法」という考え方に対し、「**法の*条に明確に書かれている」という事実がなくても、その土地やその地域、広くいえば日本全体で昔からの伝統的なやり方や取り扱い方がある場合、それを「慣習法」と認め、それに委ねられる、ということも、現実には多くあるのです。

 

「温泉権」も条文になっていない「慣習法」の一種であるため、各地の慣習法に委ねられていることが多い、ということになります。

温泉が出る土地の所有権=温泉権ではない!?

もう少し具体的に「温泉権」について考察してみましょう。

 

ある土地の所有権を持っていたとします。もしその土地から温泉が湧き出していたなら、土地の所有権に「温泉権」も含まれる、と考えるのが一番シンプルだといえます。所有地から温泉が湧き出てくることから、「温泉が湧き出る土地を所有している人が、その温泉も使える権利がある」という理論です。

 

しかし地方によっては、「慣習法」により、土地の所有権と温泉権が別のものとして取り扱われているケースも少なくありません。そのため、土地の所有権と温泉権は必ずしも一致していない、ということになります。

 

その背景には、温泉は湧き出した土地だけではなく、地下である程度広い範囲にわたって存在しているものであり、たまたまある土地からその温泉が湧き出てきたからといって、たまたまその土地を所有していた人が、温泉をすべて使うのはどうなのか、という理論があります。

 

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