前回は、後継者との「経営理念の共有」が事業承継で重要な理由を説明しました。今回は、「後継者の苦労」を見越した事業引継ぎのポイントについて見ていきます。

後継者が苦労するのは取引先や金融機関との関係維持

事業承継するということは、当然、金融機関や取引先との関係も後継者に引き継がれます。もし、現状でそうした相手との関係が芳しくない場合、後継者はその分の苦労を負うことになってしまうでしょう。

 

2011年「事業承継実態調査報告書」によると、「先代経営者から事業を引き継ぐにあたり苦労した点」という問いに対して、「取引先との関係の維持」は第2位に、「金融機関との関係の維持」は第5位にそれぞれ挙げられています。

 

ただでさえ取引先や金融機関との関係の維持については後継者が苦労することです。それにも関わらず、もし事業承継の以前から関係が悪かったとすれば、言わば「見えない負の遺産」を後継者に丸投げしてしまうことに他なりません。そうなれば当然、経営者と後継者の間の信頼関係も崩れ、ひいては事業承継自体の失敗を生み出しかねないのです。

 

【図表 事業承継の際に苦労した点】

事業承継前に外部との関係性の改善が必要

事業承継に着手する段階で、あるいはその前から、こうした外部との関係を再度確認する必要があります。万が一にでも芳しくないようでしたら、できる限り改善に努めることが経営者としての責務です。「見えない負の遺産」を遺さないようにすることが非常に重要なのです。

 

また、もちろん目に見える負の遺産を遺さないようにもしなければなりません。事業承継は別の見方をすれば、事業を一新するチャンスでもあります。たとえば、会社内に不採算部門や商品があるならば事業承継を機に改善に努めましょう。

 

さらに、もしこうした不採算のものについて、今後、改善の見込みがないと判断したならば、後継者に引き継ぐ前に現経営者の手で処理をしてしまう方がよいのです。後継者に引き継いで先延ばしにするのでは、やはり後継者との関係や後継者のモチベーションに悪影響を与えかねません。

本連載は、2016年6月24日刊行の書籍『たった1年で会社をわが子に引き継ぐ方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

浅野 佳史

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本の多くの中小企業が承継のタイミングを迎えています。承継にあたっては、親から子へと会社を引き継ぐパターンが多いのですが、親子間だからこそ起こるトラブルがあることを忘れてはいけません。 中小企業白書による…

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