親子だからといって「過信」は禁物
事業承継の際に注意しなければならないのは、後継者と現経営者との経営理念の共有ができているかどうかです。親子だからといって考え方や仕事のスタイルが共通しているわけではありません。わが子なのだから、自分の育ててきた会社をうまく引き継いでくれるはず、という過信は大きなトラブルのもとになります。
大塚家具のお家騒動がそうであったように、後継者がよかれと思って自分の仕事のスタイルを進めた結果、現経営者が思い描いていたような会社の姿から大きくかけ離れてしまったり、従業員とのトラブル、取引先との関係性が大きく変化してしまうことも考えられます。
そうしたトラブルを起こさないためには、後継者としっかりと経営理念を共有したり、また後継者が今後会社をどうしていきたいかという考えを事前にじっくり聞いておく必要があるでしょう。
活力のある中小企業は経営理念の浸透度が高い
また、その上で欠かせないのは、その経営理念を後継者だけでなく従業員にも浸透させることです。
経営理念がどの程度、社内に浸透しているかということは、会社の経営や業績にも影響を及ぼしてきます。2010年、関東経済産業局の「中小企業経営のあるべき姿に関する調査」を見てみると、「活力のある中小企業」では、「赤字企業」よりも経営理念の浸透している度合いが明らかに高いことが分かります。
従業員が経営理念に沿った行動規範を持つことで、好循環が生まれるということはよく言われます。しかし、ただ理念を掲げるだけでなく、どうやってそれを浸透させていくのかは、経営者の行動や工夫によるところが非常に大きく、腕の見せ所です。
もし、現状で経営理念が浸透していないとすれば、これまでに取り組みを行ってこなかった、もしくは取り組みはしてきたが十分ではなかったことの証しです。
この状態で後継者に事業承継しても、従業員の意識は低いままですから、後継者がいくら高いモチベーションを持って臨んでも、それが従業員に届かず、反映されない恐れがあります。事業承継の第一歩として、できれば現経営理念をもう一度確認し、社内への浸透度を把握しておいてください。まったく浸透していないというのであれば、それは大きな問題となります。
【図表1 経営理念を明確にしているか】
【図表2 実際の経営判断において、経営理念をどの程度実践しているか?】