ヒット間違いなしと確信した凄いフライパンは1年間まったく売れなかった。

現在、料理の基本は短時間の強火でさっと焼くのが常識になっています。素材の旨味を閉じ込めるためには、弱火でじっくりと焼くことがポイントです。この常識をひっくり返さなければ、凄いフライパン「エバーグリル」は売れません。飯田屋6代目店主はどうやってこの常識を覆したのでしょうか、著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)で明らかにします。

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好意的だったメディアが協力してくれない

■「勇気ある経営大賞」への挑戦

 

これまでの業界常識を覆すフライパン「エバーグリル」がついに完成。メディアにリリースをすれば、絶対に評判になるはずと僕は意気込んでいました。

 

しかし、2017年11月19日(いいどうぐの日)の発売から1年間、まったく売れませんでした。そこには、こんな誤解が関係していました。

 

料理をおいしく仕上げる要件の一つに火加減があります。肉や魚料理の失敗の多くは、強すぎる火加減が原因です。たんぱく質は急速に熱を加えると、水分が一気に抜け出てしまい、身が収縮して硬くなってしまうのです。素材の旨味を閉じ込めるためには、弱火でじっくりと時間をかけて焼くことがポイントです。

 

しかし世間では、短時間で強火でサッと焼くのが常識になっています。真逆なのです。業界もそれを否定しません。むしろ、業界が売りたい商品を継続的に売るためには、そう信じてもらったほうが好都合です。

 

僕たちはしばしば間違った常識を信じています。それをひっくり返すには、ものすごいエネルギーが必要なのです。

 

これまで好意的だったメディアが突然、手のひらを返しました。知り合いのテレビプロデューサーに企画を持ち込んでも、「スポンサーが……」と取り上げてもらえないのです。

 

少量生産しかできないので、問屋や商社にも卸せません。「今さら業界常識を変えてもね」「一石を投ずるような真似はしてくれるな」と非難されることすらありました。「飯田屋の若いやつが変なことを始めた」と、悪意のある言葉も聞こえてきました。

 

そのとき、ふと気づいたことがありました。

 

これまで、たくさんのメディアで数多くの料理道具を紹介させてもらいましたが、あくまでも〝業界の枠〞の中での注目にすぎなかったのです。「よく切れるパン切り包丁は?」「一生使えるまな板は?」など、世の中にある道具を比較はできても、業界の枠からはみ出す革新性を備えたエバーグリルには、こぞってストップがかかりました。

 

いい道具でありながら紹介できないことが悔しくて、やり切れない思いでいっぱいになりました。「もしかしたら僕のせいなのか」と、飯田結太という個人に限界を感じました。

 

世の中にはいい道具にもかかわらず、消えていく商品が山ほどあります。一方で、知られていなかった道具がメディアで注目を浴び、ヒット商品へと変貌を遂げる例もあります。

 

社会を動かすほど注目された商品の多くは、商品の魅力だけなく、ドキュメンタリー番組などで会社の取り組みや考え方を紹介された結果であることが多いようでした。僕のように個人の力で商品を伝えようとしても、限界があるのです。

 

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※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

効率度外視の「売らない」経営が廃業寸前の老舗を人気店に変えた。 ノルマなし。売上目標なし。営業方針はまさかの「売るな」──型破りの経営で店舗の売上は急拡大、ECサイトもアマゾンをしのぐ販売数を達成。 廃業の危機に…

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