ヒット間違いなしと確信した凄いフライパンは1年間まったく売れなかった。

現在、料理の基本は短時間の強火でさっと焼くのが常識になっています。素材の旨味を閉じ込めるためには、弱火でじっくりと焼くことがポイントです。この常識をひっくり返さなければ、凄いフライパン「エバーグリル」は売れません。飯田屋6代目店主はどうやってこの常識を覆したのでしょうか、著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)で明らかにします。

飯田屋が「勇気ある経営大賞」優秀賞を受賞

これまでは「メディアによく顔を出すタレント社長のいる店」という個、人、への評価でした。しかし、いい道具を伝えるためには「いい道具を取り扱う店」と会、社、として評価され、愛されるように成長していかなければいけないと強く思いました。

 

とはいえ、すでに飯田屋には素晴らしい従業員たちが活躍してくれているという自負があります。そこで、会社の魅力を外部へわかりやすく表現できないものかと考え、実行したのが「勇気ある経営大賞」への応募でした。

 

これは東京商工会議所が「過去に拘泥することなく高い障壁に挑戦し、理想の追求を行うなど勇気ある挑戦をしている中小企業またはグループを顕彰する制度」です。いうなれば、企業の大小は関係なく、いい会社であれば表彰するという取り組みです。

 

書類審査、実地審査、従業員を含めた面接・発表などを乗り越え、第16回(2018年)優秀賞を受賞できました。受賞理由は、経営危機に際して顧客の「これが欲しかった」に応えるため、社内外からの反対を受けながらも事業を見直し、大きく業績を改善したことです。

 

初めて飯田屋がいい会社であると認められた瞬間でした。

 

■企業としての信頼で業界常識を克服

 

勇気ある経営大賞の優秀賞受賞をきっかけに、大きく流れが変わりはじめました。

 

メディアの評価も今までのように「料理道具が詳しい蝶ネクタイの変な社長」という評価から、「いい会社を経営する、料理道具が詳しい社長」へと変わります。僕の料理道具の知識だけでなく、会社での取り組みにまでスポットライトが当たるようになったのです。テレビへの露出はこれまで以上に加速度的に増えていきます。

 

2019年5月、「マツコの知らない世界」という人気テレビ番組に、フライパンの専門家として出演する際、番組プロデューサーに「エバーグリルを紹介したい」と相談したところ、「飯田さんがいい商品と言うならばやりましょう」と快く承諾を得られたのです。

 

それまでは、飯田屋がつくった道具を飯田結太が紹介しようとすると、「広告になってしまうので紹介できない」と何度断られたことでしょう。飯田結太個人ではなく、飯田屋という会社としての信頼を勝ち得たからこそ、エバーグリルを世の中のスポットライトが当たる場所に引き出すことができたのです。

 

これをきっかけに、エバーグリルは圧倒的なブレイクを果たしました。生産が追いつかないほどの大ヒット商品となったのです。

 

飯田屋でも常に欠品状態となりました。あれほど否定され続け、見向きもされず、業界常識とは真逆のフライパンが日の目を見たのです。2019年には、その美しさと実用性が評価され、フライパンで唯一「グッドデザイン賞」を受賞させていただきました。

 

エバーグリルではさまざまな経験を重ねました。悔しいことも、つらいこともあり、開発をやめてしまおうかと思ったときもありました。

 

それでも続け、多くの人に愛されるフライパンを生み出して、得られたもっとも大きな成果はなんでしょうか? それは売上でも利益でもありません。

 

正直、そんなことはどうでもいいと思えるほど、丸山さんと佐藤さんに出会えてよかったと思うのです。ともに苦労を乗り越えた一生涯の友を得られ、「僕はなんて幸せなんだ!」と叫び出したくなるほど嬉しいのです。

 

飯田 結太
飯田屋 6代目店主

 

 

※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

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