不合理すぎる対応に、信頼関係が破壊されたと認定
まず①の点について、裁判所は、
と述べ、無条件で修繕工事に協力する旨の特約があっても、借主にはその条件について協議を求める権利があることを認めています。
次に②の点については、裁判所は、以下のように述べて、借主の不合理な対応によって信頼関係は破壊されたとして賃貸借契約の解除を認めました。
「借主が最終的に本件工事に求める条件は、
①被告の営業日外である土日に行うこと、
②本件工事に原告代表者が立ち会うこと、
③本件工事によって被告に損害が生じた場合に原告が責任を負う旨を書面で明確にすること、
④被告代表者が本件工事に立ち会うことの日当として3万円(1日1万5000円×2日)を支払うこと、
⑤被告の従業員が机やパソコンといった備品類や床に置いてある書類等を移動させることの日当として20万円(1日10万円×2日)を支払うことであると認められる。」
「また、これに対する原告の回答は、
①本件工事は土日に行う、
②原告代表者が本件工事に立ち会う必要はないため立会いは行わないが、事故が起きた場合には不動産業者が対応できるようにしておく、
③本件工事の責任を原告が負うことを明確にする内容の和解について検討可能である、
④、⑤日当を支払うことはできない
というものであることが認められる。」
「そうすると、②、④及び⑤の点が問題となるところ、②につき、原告代表者が本件工事に立ち会わなければならない理由はないし、④、⑤につき、本件工事においては、机やパソコンといった備品類を移動させる必要はなく、脚立を置く足場を確保するために床に置かれた書類やごみ箱を動かすことで足りるところ、被告代表者は、工事業者がこれらを動かすことは許さず、従業員に指示して行う必要があるためやはり上記日当を要求する旨明言しているが、脚立を置くために必要な範囲で床に置かれた書類等を一時的に動かすことによって、被告に金銭補償を要するほどの損害や負担が生じるとは考え難く、もはや合理的な範囲を超えた要求であると言わざるを得ない。」
「したがって、被告は、本件工事への協力を拒み、本件特約1に違反したと評価すべきであり、上記説示した経緯に加え、原告における本件工事の必要性や本件工事によって被告が被る負担の程度に照らせば、原告と被告の間の信頼関係は破壊されたというべきである。」
上記で引用した部分以外でも、本件事例では借主側がかなり理不尽な対応を貸主にとっていたということも解除を認める方向に働いたと考えられます。
本件はかなり独特な事例ではありますが、「借主が修繕工事への協力を拒むこと」が契約解除の原因となったという点で珍しく、ひとつの参考事例として紹介しました。
※この記事は、2020年6月27日時点の情報に基づいて書かれています(2022年1月14日再監修済)。
北村 亮典
弁護士
こすぎ法律事務所
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】