(※写真はイメージです/PIXTA)

小児科医である大宜見義夫氏は、「あるがままを受け入れられ、自己の存在価値を見出し得たとき、人は一変する」と語ります。同氏が診察した、一人の少女の事例を見ていきましょう。

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発達障害の子が、うめき声を発しながら診察室に現れた

A子は波乱の少女時代を送った女子高校生である。

 

彼女は幼少の頃から発達障害の特性を持っていた。おもちゃ並べに没頭する、音や味に敏感、偏食が激しいなどの特性があった。人の気持ちが読み取れず感情表現も苦手だった。小学校入学当初、級友らが何を話しているのかわからず立ちすくんだ。事情を知らない母親は「言わなくてもわかっているでしょう!」と口をすっぱくして言っていた。

 

小柄で寒がりで食が細く、下痢や嘔吐を繰り返し、三歳頃から喘息発作や肺炎などで入退院を繰り返した。病弱なため小学校時代の大半は登校できず、下肢に関節リュウマチ様症状が出没して歩行困難となり、車椅子で登校したこともあった。

 

中学進学を前に自閉症の診断を受け、中学校は支援学級(情緒クラス)に通う手はずになっていた。

 

そんな彼女が初めて診察室を訪れたのは中学進学直前の三月末だった。腹痛でお腹を押さえ、顔をゆがめうめき声を発しながら診察室に現れた。胃腸虚弱で下痢しやすく極端な寒がりだったことから漢方薬をメインに対処した。

 

学校ストレスが背景にありそうに思われたが、具体的要因はつかめなかった。

 

中学校へ入学した当初、症状は比較的安定し登校できたものの、登校二週目より再び下痢や腹痛が現れ、登校が困難となった。教室が三階にあったため、下肢に力が入らず階段を上がりきれないことも登校を困難にしていた。

 

腹痛に我慢できず、早退を担任に申し出たところ、担任は気持ちの持ちようととらえたらしく、早退を認めてくれなかった。このことをきっかけに学校側と母親との間にぎくしゃくした関係が生じた。母親は甘え・わがままととらえられたことに憤慨していた。

 

登校ストレスと感情的なもつれから学校を休んだA子は六月から出席扱いが可能なフリースクールに通い始めた。そこは、献身的で知られる女性が運営する学習施設であった。

 

中一の三月、A子ははじめて当院の女性心理士に自分の心の中に七人の友人がいることを告白した。七人は性格がそれぞれ違い、辛い時、悲しいとき、くやしいときに入れ替わり登場するのだと言う。そのことについて、叱られそうなので母親には黙っているという。

 

不安に襲われ、どうしようもないときに現れるおない年の女の子や、母親から厳しい叱声を浴びたときに現れ、一緒に泣いてくれる男の子もいた。困ったときに現れ悩みを解決してくれるお姉さんタイプの人もいてそれぞれが役割を担っているらしかった。

 

出現の経過や様子から見ると、人格が入れ替わり、別人に移行する多重人格障害(解離性同一性障害)というようなものではなく、想像上の人物と交流するイマジナリーコンパニオン(空想上の友達、以下、メンタルフレンドと略)と呼ばれるもののようだった。

 

厳しい現実と向き合うのがきつく、想像の世界の友達と語らうことでつらさを乗り越えようとする心理機制のように思われた。

 

四か月後、本人の了解を得て、母親にメンタルフレンドの件を告げた。母親はうすうす気づいていたようだった。小さい頃からブツブツ独り言を繰り返していて、時々対話口調になっていたという。

 

幼少期、一人親家庭で仕事との両立に苦労する母親は、言葉がスムーズに通じない我が子を強く叱ったり、叩いたりしていたと反省の弁を述べていた。「私が一番怖かったかも……」とうっすら涙を浮かべることもあった。

 

中学二年になる直前の四月、悲劇が起きた。なじみ慕っていたフリースクールの女性施設長が死亡する事件が起きたのだ。A子は終日落ち込んで部屋にこもって泣いた。その際現れたメンタルフレンドの一人は左腕をリストカットしていた。

 

A子はまもなく再開されたフリースクールに再び通いはじめた。

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※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『爆走小児科医の人生雑記帳』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。
※「障害」を医学用語としてとらえ、漢字表記としています。

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