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中国における高齢者(60歳以上)のうち、男性の就業率は16.5%、女性は10.4%(2015年)
『中国都市・農村高齢者生活状況調査報告(2018)』によると、高齢者の就業者数は増加傾向にあり、2015年時点で5,957万人※まで増加している(図表1)。
※ 2015年の高齢者数の就業者数、高齢者数のデータは2015年の人口1%サンプル調査を基に、実際の抽出率(1.55%)で調整して算出されている。
ただし、60歳以上の高齢者のうち、男性の就業率は16.5%、女性は10.4%にとどまっている。日本の高齢者(65歳以上)の就業率と比較してしまうとその低さが目立つが、中国の場合は女性の定年退職年齢が早く(50歳または55歳)、育児(この場合は孫世代)の家族化が定着し、それが現役世代の就労を支えているという点にも留意が必要であろう。
また、図表1をみると、中国の高齢者の就業率は、男女とも2000年ごろから緩やかに低下している。その背景には、高齢化は伸展しつつも※、それと同時に経済の高度成長期による所得の向上や資産の形成がなされている点がうかがえる。
※ 中国では2001年に高齢化社会(総人口のうち65歳以上の高齢者が7%を占める)に移行している。
また、当時の高齢者世代は出産期に一人っ子政策の影響を受けていない点から、複数の子どもによるサポートが得やすい環境にあることも考えられる。しかし、今後、高齢化が更に伸展し、一人っ子世代の親世代が高齢者に移行すると、これまでと同様の状況が維持できるとは限らないであろう。
そうなると老後の生活を支える公的年金制度の重要性は更に高まることが考えられるが、制度の持続性や健全性、年金給付の十分性の確保が懸念材料として挙げられている。特に課題とされているのが、定年退職年齢の引き上げである。現行法に基づけば、定年退職年齢の引き上げとともに年金受給開始年齢も引き上げられることになるからだ。
この問題は長年検討されてきたが、上掲の状況から導入が先送りされてきた※。中国では定年退職年齢の引き上げ、高齢者の就業意欲の向上、高齢者が安心して働ける環境の整備、雇用の機会の創出が進まない状況下で、総人口の減少時代を迎えようとしている。
※ 2015年3月、主務官庁である人力資源社会保障部は、当初は、2015年中に定年退職年齢の引き上げに関する案の制定、2016年内の中央政府の同意と社会への公開、2017年の公布、2022年以降の正式な実施を発表していた。
一方、調査が実施された2015年時点での中国の高齢化率は16.1%であり、日本で高齢化率がほぼ同じなのは1999年(高齢化率は16.2%)となる。1999年当時の日本の高齢者(65歳以上)のうち、就業している割合は、男性が34.3%で、女性が14.7%であった(中国の2015年時点では、男性が11.4%、女性が6.7%)。
更に、60~64歳の場合は、男性が66.1%、女性が38.6%と更に高くなる(中国の2015年時点では、男性が25.8%、女性が17.0%)。日本の高齢者の就業率はそれまでも高い水準で推移していたが、高齢化、総人口の減少が進む中で、就業率は更に上昇している。
難航する法定退職年齢の引き上げ
上掲からも日本の高齢者の就業率はもとより高く、主要国と比較してみても高い状態にあることがうかがえる(図表2)。各国で、高齢者そのものの定義や、高齢者自身の就業意識、社会の捉え方、就労機会などの状況が異なるため比較は難しいかもしれない。
しかし、日本における特徴の1つとして考えらえるのは、高い就業意欲をベースとしながらも、高齢者の就業機会の創出や確保という労働市場の調整や、定年退職年齢、年金制度の改定などの法律・政策をおよそ50年という時間をかけて丁寧に整備した点が挙げられる。高齢化にともなう働き方の変化や年金受給の開始時期の調整は、老後の生活の安定化に直結する。その調整をする前に、社会や高齢者の就労意識を変え、老後の不安を軽減する必要もあろう。
日本と中国は人口規模も高齢化のタイミングも異なる。しかし、高齢化のスピードはほぼ同じ、もしくは中国の方が少し速い状況にある。日本が高齢化社会(1970年・高齢化率7%)から高齢社会(1994年・高齢化率14%)への移行にかかった時間は24年、中国は推計で同じ24年(2025年)となっている※。また、日本は高齢社会から超高齢社会(2007年・高齢化率21%)への移行は13年、中国は推計で11年(2036年)とされている。
※ UN,World Population Prospects。なお、2021年5月に公表された国勢調査から、高齢社会、超高齢社会への移行の更なる前倒しが懸念されている。
日本は世界的にみても速いスピードで高齢化が進行している点を考慮しながら、高齢化社会(1970年)に移行する前段階から準備を始めていたと考えられよう。例えば、1963年の高齢者福祉法において高齢者の就業や社会活動の機会創出が提唱され、1971年の中高年齢者等雇用促進法では高齢者の就業機会の確保、1986年の高年齢者雇用安定法では60歳定年が努力義務化されている。
2013年からは定年を60歳未満とすることを禁じ、65歳まで引き上げる雇用確保措置を講じている。更に、2021年4月からは70歳までの就労機会確保が企業の努力義務となっている。
中国は、法定退職年齢の引き上げを2025年までに実施するとしている※。しかし、これまでと同様、状況の改善等が進まないままでの実施に対して社会の反応は厳しく、政府は具体的な引き上げ方法を示せない状況にある。
※ 「中華人民共和国国民経済和社会発展第十四個五年規画和2035年遠景目標綱要」(2021年3月)
本来であれば、事前に社会や高齢者自身の就労意識の変革や、高齢者が安心して働けるよう育児の脱家族化、市場化をはかる必要もあろう。長期的に考えて高齢者が安心して働ける雇用機会を創出、確保していく必要もある。こういった時間や労力のかかる問題を短期間で解決しようとすれば、冒頭の「意見」にあるような“多くの高齢者が達成感、幸福感、安心をより感じる社会”への道のりは厳しさを増すではなかろうか。
片山 ゆき
ニッセイ基礎研究所
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