(※画像はイメージです/PIXTA)

12月10日に公表された令和4年度の税制改正大綱では、引き続き、相続税と贈与税の一体化への方針が示されています。相続税・贈与税の課税対策としても、これまで同様に、現状で認められている生前贈与を早い段階で実行していくことが有効だといえるでしょう。一方で、長寿化が進むなか、認知症対策も欠かせないと、税理士法人田尻会計の税理士・古沢暢子氏は述べています。そこで本記事では、認知症対策として有効な「家族信託(民事信託)」についてみていきましょう。

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「令和4年度与党税制改正大綱」内容と今後の動向

 令和3年12月10日に公表された令和4年度与党税制改正大綱の「相続税や贈与税の在り方」では、相続税及び贈与税制度について改正内容や施行日についての具体的な言及はありませんでした。

 

しかし、公表文からは引き続き「資産の早期世帯間移転を促進」し、「資産の再配分機能の確保」をめざして、相続税と贈与税の一体化を進めるという強い姿勢が読み取れます。

 

今後は暦年贈与の見直しや制限が強化されていき、最終的には暦年贈与制度が廃止され、贈与税と相続税が一体化された相続時精算課税のような課税方式になる可能性もあるでしょう。

 

改正が現実となった場合には、多額に相続税がかかる世帯ばかりでなく、相続税がかかる限度に近い範囲の財産を所有している世帯にも大きな影響があるものと考えます。

 

現時点では、相続税・贈与税課税に関する具体的な改正案は示されていないため、引き続き暦年贈与の基礎控除枠や特例税率を利用した贈与、非課税の特例を活用した贈与、3年間の持ち戻し対象とならない孫やひ孫への贈与などを進めていくことが、相続税・贈与税課税への対策としては有効でしょう。

 

しかし、自身の財産を守り、次世代に承継していくためには、その財産を価値のある状態でコントロールし続けられるということも重要なことなのではないかと筆者は考えます。

相続・事業承継対策における「認知症」のリスク

人生100年時代といわれる現在、日本の平均寿命は平成2年から令和2年の30年間で5年以上も伸びており、高齢人口の増加とともに長寿化が進んでいます。

 

加齢が進むにつれ認知症を発症するリスクも高まっており、令和7年には65歳以上の5人に1人が認知症になるという推定値も出ています。(出典:平成29年『高齢社会白書』第1章第2節3高齢者の健康・福祉)

 

認知症になり判断能力がなくなった場合には、「財産の凍結」がおこります。不動産オーナーが認知症になり判断能力がなくなれば、入居者との契約更新を進められず、大規模修繕の計画や銀行からの融資の実行もできなくなる可能性があり、その不動産の資産価値を大きく減らす要因となるのです。

 

また、本人に介護が必要になった時にも、預金を自由に引き出すことが難しいため、家族が費用を立て替えなければならないケースも多くあるようです。

成年後見制度にかわる家族信託(民事信託)制度の実際

認知症により判断能力がなくなった場合には「成年後見制度」を利用することができますが、財産の管理を柔軟に行えなくなることや高額な費用がかかるなどの理由から、この制度の利用率は2%程度に留まっています。(最高裁判所事務総局家庭局『成年後見関係事件の概況(2010~2020年)』より)

 

厚生労働省では、期間や範囲を柔軟に判断し、成年後見制度の利用を促進する令和4年度からの5ヵ年計画案を示しましたが、現状では生前に相続対策をする上で、この制度が大きな制約となる場面が多いのです。

 

このような状況から、平成18年に信託法が改正され家族信託(民事信託)制度の本格的な利用が始まりました。自分の財産を家族や親族に託すことによって、判断能力がなくなってしまった後も、自分が望んでいた相続・事業承継対策を計画に沿って進めていくことが可能となり、柔軟な財産管理・運用・処分をすることができるようになります。

 

不動産オーナーが認知症になった時、受託者となった子どもの判断で不動産を売却して施設入居費用や介護費用を準備した、会社経営者の父親の所有する株式を息子に信託し、円滑に相続・事業承継を進めることができた、というように活用事例は広がっているようです。

 

自身が、節税策を含む相続・事業承継への対策をどれほど詳細に行っても、実行される前に判断能力がなくなってしまえば、財産をコントロールして対策を実現することは難しくなります。

 

財産の処分等が柔軟にできないことによって、大切な家族が将来対応に困ることは、被相続人にとってもっとも望まない結末でしょう。財産を「価値あるもの」として次世代に承継していくために、家族信託は有力な選択肢の一つといえるでしょう。

 

 

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