(※画像はイメージです/PIXTA)

自身の財産を、法定相続人でない人に遺したい、と望む場合、どんな方法を取れば良いのでしょうか。税理士法人田尻会計の税理士・古沢暢子氏が解説していきます。

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Aさんの死後に姪に財産を渡すために取るべき手段は?

先日、相談にいらしたAさんは、ご自身が病を患ってから身近で献身的に介護をしてくれている姪に財産を渡したいと考えていました。Aさんの両親はすでに他界し、配偶者と子供はおらず、4人の兄弟姉妹がいました。

現時点でAさんが亡くなった場合には、法定相続人は4人の兄弟姉妹となり、相続分はそれぞれ1/4です。姪は法定相続人ではないため、財産をもらうことはできません。

そこで、Aさんの死後に姪に財産を渡すためにはどのような方法があるのか、さらに選択する方法によって、相続税や所有権移転に係る登記費用等についてどのような違いがあるのかを説明することにしました。

法定相続人でない人に財産を渡すためには?

現時点でAさんに相続が発生した場合、法定相続人でない姪に財産を渡すためには、次の方法が考えられます。

 

①Aさんと姪が養子縁組をする

②Aさんが遺言を作成し、姪に財産を遺贈する

 

養子縁組をすると、二人の間に法律上の親子関係が成立し、姪は相続時においては法定相続人として財産を受け継ぐ権利を持つことになります。養子縁組をしない場合は、Aさんは遺言を作成して姪に無償で財産を譲ることになります。この行為は法定相続人が財産を引き継ぐ場合と区別して「遺贈」とよばれ、姪は「受遺者」となります。

 

尚、養子縁組をしない状態で姪の親(Aさんの兄弟)がAさんより先に死亡した場合には、姪はその親に代わってAさんの法定相続人(代襲相続人)となり、財産を受け継ぐ権利を持つことになります。

「登記費用」等は、法定相続人とそれ以外の人で異なる

相続税の2割加算の適用

相続や遺贈等により財産を取得した人が、亡くなった方の配偶者及び一親等の血族以外の人である場合は、その人の相続税にその相続税の2割に相当する金額が加算されます(相続税の2割加算)。

 

姪がAさんと養子縁組をして財産を受け継ぐ場合は、一親等の血族である法定相続人となり、相続税の2割加算の適用はありませんが、遺言による遺贈を受けた場合には2割加算の対象となります。

 

また、姪が親(Aさんの兄弟)を代襲してAさんの財産を相続した場合にも、2割加算の対象となります。

 

登録免許税、不動産取得税の取り扱い

所有権移転にかかる登録免許税、不動産取得税の計算においても、法定相続人とそれ以外の人は区別されます。

 

法定相続人が不動産を取得した場合には、所有権移転の登録免許税の税率は0.4%(4/1000)ですが、法定相人以外の人が遺贈により不動産を取得した場合は2%(20/1000)です。

 

不動産取得税においては、法定相続人が不動産を取得する場合には不動産取得税は課税されません。一方で、法定相続人以外の人が遺贈により不動産を取得する場合には、「特定遺贈」では不動産取得税が課され、「包括遺贈」では課されません。

 

「特定遺贈」とは遺言により特定の財産を遺贈することであり、遺言書には、B土地を受遺者〇に遺贈する、などと書かれます。

 

「包括遺贈」とは財産内容を指定せずに行う遺贈のことであり、遺言書には、遺産の半分を受遺者〇に遺贈する、遺産の全てを受遺者〇に遺贈するなどと書かれます。

 

この「包括遺贈」においては、受遺者はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐこととなり、法定相続人と同じ権利をもつと考えられています。

「養子縁組」をして法定相続人の数が減る場合は要注意

今回の相談内容の場合、Aさんと姪が養子縁組をすることにより、法定相続人の数が減ることに注意が必要です。

 

法定相続人は被相続人の財産を受け取れる人として民法で定められています。被相続人の配偶者は相続開始時に生存していれば常に相続人となり、血族については次の順位により相続人となります。

 

第1順位:直系卑属(子、孫、ひ孫など)

第2順位:直系尊属(父母、祖父母、曾祖父母など)

第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥姪)

 

血族のなかで同じ順位の人が複数いる場合は全員が相続人となりますが、先の順位の人が一人でもいる場合は後順位の人は相続人になれません。

 

Aさんと姪が養子縁組をすると、姪は第1順位の直系卑属としてAさんの法定相続人になりますが、その時点で後順位となるAさんの4人の兄弟姉妹は法定相続人から外れ、法定相続人が4人から1人に減ることになります。法定相続人の数は、相続税の基礎控除や非課税額に影響します。

 

相続税の基礎控除は【3,000万円+600万円×法定相続人の数】と計算され、法定相続人の数が4人の場合の基礎控除は5,400万円なのに対して、1人の場合には3,600万円となります。

 

また、生命保険金等及び退職手当金等の非課税額は【500万円×法定相続人の数】と計算され、法定相続人の数が4人の場合はそれぞれ2,000万円まで非課税ですが、1人の場合にはそれぞれ500万円までが非課税となります。

 

Aさんとはその後何度か面談を重ね、所有する財産の整理を行いながら、養子縁組や遺言による遺贈が与える影響を具体的な金額を用いて説明し、ご理解をいただけたようでした。

 

ただ、相続対策を行う上で、筆者は、Aさんの死後に親族間でトラブルが発生する可能性を、少しでも回避するような配慮も必要であることを強く伝えています。姪ともよく話をするとともに、兄弟姉妹との関係なども踏まえた上で今後の方向性を決めていくことになりました。

 

 

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