(※写真はイメージです/PIXTA)

普段はアメリカで暮らしているという大西睦子医師。新型コロナワクチンの接種を支援するために、2021年5月16日からおよそ半年間の間、日本に滞在していました。日本では感染状況が落ち着き、1日の新規感染者数が100人未満という日もある一方で、海外では感染者が急増中。もとより流行状況に大きな差があるものの、12月1日にアメリカへ入国した同氏は、「状況の違い」にとても驚かされたと振り返ります。感染者数の多寡を見るだけではわからない、意外な実情とは?

感染再拡大の唯一の原因は「ワクチンの免疫力の低下」

州公衆衛生局のデータによると、マサチューセッツ州は、州民の約73%(2021年12月10日現在)がワクチン接種を完了させています(※8)。接種が完了した人で、新型コロナウイルスに感染した人(ブレイクスルー感染)は1.8%、入院は0.05%、死亡は0.01%と非常に稀(12月7日の報告)です。

 

ところが、12月10日の地域ニュースによると、病院では、新型コロナウイルスの患者が急増するにつれ、かなりの割合で初回ワクチン接種後の患者が報告され、ブースター接種後の患者も少なくありません。州内最大の病院ネットワークである「マス・ジェネラル・ブリガム(Mass General Brigham)」では、同じ週の1日国勢調査で、新型コロナウイルス患者の30%がワクチン接種後、70%が未接種でした(※9)。同病院のICUでは、22%がワクチン接種後、78%が未接種でした。

 

マサチューセッツ州中部で最大の医療システム「ユーマス・メモリアル(UMass Memorial)」社長兼最高経営責任者であるエリック・ディクソン博士は、「国内で最もワクチン接種が進んでいる州の一つであるこの州において、再び新型コロナウイルス感染が急増している」「このような事態に陥る可能性として考えられるのは、唯一、昨年受けたワクチンの免疫力が低下していることだけだ」と述べています。同病院では、今週の調査で、新型コロナウイルス患者の40%、ICUでは25%がワクチン接種していました。

 

さらに、マサチューセッツ州公衆衛生局は、12月4日、遺伝子解析によりオミクロン株がマサチューセッツ州内の症例で初めて確認されたことを発表しました(※10)。症例は20代の女性で、州外に旅行したことがあります。ワクチンを完全に接種しており、軽度の疾患で、入院の必要はありませんでした。

 

※8 https://www.mass.gov/doc/weekly-report-covid-19-cases-in-vaccinated-individuals-december-7-2021/download

※9 https://www.wbur.org/news/2021/12/10/massachusetts-hospitals-vaccinated-coronavirus-patients

※10 https://www.mass.gov/news/omicron-variant-detected-in-massachusetts

ブレイクスルー感染もオミクロンも「追加接種」が有効

ネイチャー・ニュースによると、南アフリカ、ドイツ、スウェーデンおよびファイザー社とバイオテック社の共同チームが発表した予備的な研究結果は、オミクロン株に既存のワクチンによる効果が弱まる可能性がありますが、ブースター接種で免疫力が向上することが示唆されています(※11)。CDCによると12月12日現在、65歳以上の米国人51.4%(全人口では26.6%)はブースター接種を完了しました(※12)

 

12月6日の米医師会雑誌(JAMA)は、JAMA副編集長かつミシガン大学医学部感染症部門教授プリティ・マラニ博士と、ミシガン大学感染症部門准教授アダム・ローリング博士、JAMA編集員かつエモリー大学医学部感染症科教授カルロス・デル・リオ博士の、オミクロンについての対談を紹介しています(※13)

 

対談の中で、デル・リオ博士は次のように語っています。

 

「米国では、一連のワクチン接種を開始するのが本当に難しくなっています。ブースター接種は増えていますが、そもそもワクチンを接種していない人もいます。ワクチン接種しない人が多いのは、情報がないからではなく、過剰な誤情報のためだと思われます。私たちは誤情報に真剣に取り組まなければなりません。未接種の人にワクチンを受けてもらうには、オミクロンのような機会を利用しなければなりません。『オミクロンに何ができますか』と問われたとき、私は『ワクチンが未接種なら、受けましょう。もし接種済なのであれば、追加でブースター接種を受けてください』と言いました」

 

また、ローリング博士は、新年の期待として、次のように述べました。

 

「新型コロナウイルスのコントロールがうまくできるようになると思います。オミクロンの流行で、すべてが最初からやり直しになったように感じているでしょう。でも、私たちはパンデミックの初期に比べてはるかに進歩しています。効果の高いワクチンができました。薬も出てきています。解決しなければならない大きな問題がたくさんあるとはいえ、私たちは本当に驚異的な進歩を遂げています。パンデミックが収束するまでまだまだ先のことのように感じますが、誰もが口にする“魔法の流行地”にたどり着けると思います。2022年後半になるかもしれませんが、そこにたどり着けると思います。その方向に向かって進んでいます」

 

ところでこの対談は12月1日に収録されています。収録中に、CDCがアメリカで初めてオミクロンの症例を確認したという警告が流れました。そこでマラニ博士が「早速ですが、何か反応はありますか?」と尋ねると、デル・リオ博士は「まあ、驚きはしません。探せば出てくるものです。私たちは皆、相互につながっているのですから」と答えました。

 

私自身、米国でオミクロン株が確認されたことにまったく驚きはありません。しかし、各国における政府の対応や国民の反応の違いには驚かされました。

 

※11 https://www.nature.com/articles/d41586-021-03672-3

※12 https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#vaccinations_vacc-people-onedose-pop-5yr

※13 https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2787065?guestAccessKey=412a0790-bcd8-4776-8537-6cf60a37717e&utm_source=silverchair&utm_medium=email&utm_campaign=article_alert-jama&utm_term=mostread&utm_content=olf-widget_12082021

 

 

大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

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