万が一経営不振になっても救われる航空2社
日本の場合は、航空会社は大手2社(JALとANA)に加えて、数社国内線がメインの会社があります。日系航空会社と経営危機、という面で記憶に新しいのは、2008年のリーマンショック後の2010年1月に会社更生法を提出し、一度破綻整理したJALかと思います。
その後政府介入による再生タスクフォースの設立、また稲盛和夫元京セラ社長を迎え入れ、既存株主は100%減資(要するに価値がゼロになるということ)、金融機関は5200億円の債務放棄を行い、多くの大型機体の資産売却や給与抑制などコストカットも行い、不採算路線を廃止する一方で、採算性の高い基幹路線は維持を許されました。様々な援護射撃を受け、同社は2012年9月には再上場を果たし、無事公的資金は返済されました。
また直近では、スカイマーク社が2015年1月に民事再生法を申請し、株主100%減資となったものの、投資ファンドのインテグラルやANAホールディングスの支援を得て、欧州航空機大手エアバスとのA380型2機の機体購入をキャンセルの交渉や、リース会社など債権者と交渉を行い、無事弁済を終え、2016年3月に民事再生の手続きが終了し、2020年4ー6月期には再上場の予定でしたが、コロナ禍において先送りとなりました。
また日本の航空大手(JALとANA)に関しては、コロナショック以前までの高い利益率、配当金の減額、銀行などからの更なる融資枠設定により、資金ショートという場面には落ちない、と思われます。ただコロナショックの長期化により、国際線の需要の戻りは一段と遅延することが予想され、新型コロナの感染拡大の状況を鑑みながら、国内線市場での収益を上げていくように、といった戦略をとる必要があるでしょう。
しかし、ANAはJALのように再生することで債権の棒引きをしてもらっていない、言い換えれば、同セクターでも、ちゃんと健全経営されていた会社がインパクトを受けやすい、という皮肉さもあります。
総合的に見ると、島国という特徴上、日本は航空便がないと海外と行き来できず、また空港を地元に作り、多くの人を東京など都市部から輸送してくる、といった地方経済活動を支える面でも航空セクターは重要な役割を果たしており、加えて全国の空港経営も羽田空港など数か所の収益により、他の数十の公的な空港運営を保たせています。
このように複雑なエコシステムがあるため、過去の事例から日系の航空会社は、今後も万が一経営不振になった際には、政府や金融機関などが手を差し伸べる、といった事例が見られるのでは、と客観的には見て取れます。広く言い換えれば、金融機関の負債棒引きなり、国民の税金などで負担される業種、とも捉えられます。
後藤康之
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
国際公認投資アナリスト(CIIA)