これから東京は初めての「ダイエット」を経験する
では、これからの30年はどうなるのか。2050年の東京は今とどこが違うのか?
1960年と1990年の東京の風景は、「同じ街とは思えない」レベルで変貌を遂げたはずだ。高度成長や「日本列島改造論」が、東京だけでなく日本全体を劇的に変化させたからだ。
しかし、1990年と2020年の東京では、ハッキリと「同じ街だ」とわかる程度にしか変わっていない。少なくとも私はそう感じる。
そのうえで2050年の東京は、2020年の東京と比べて「ほぼ完全に同じ街だと認識できる」レベルであろうと確信的に予測する。
もちろん、建物はずいぶんと新しくなるだろう。通りの看板も変わる。銀座や新宿、渋谷などの街では、看板のほとんどがLEDの画面に変わっているはずだ。
そして道路を走っているのは、人が運転していない様々な種類のヴィークルだ。タクシーは空中を飛んでいない。せいぜい東京駅前から成田や羽田へは、空中移動のバスが飛んでいるかもしれないが、利用料はおそらく地上を走る電車やバスの3倍から5倍くらいではないか。その場合には移動時間は15分程度だろう。
新しい地下鉄は、ほとんど開業していないと思う。必要ないからだ。
ただ、現在計画されている東京8号線(豊洲〜住吉間)程度なら、あるいは30年後までに開業しているかもしれない。この8号線というのは押上あたりから江東区の住吉、東陽町あたりを経由して、豊洲までつなげようとする地下鉄有楽町線の支線になる。
この路線の実現は長年の「江東区の悲願」とでも言うべきもので、ローカルな熱意がそれなりにうかがえる。だから、実現の可能性も少しはありそうなのだが、仮にこの8号線が開業したところで、江東区の深川あたりから区内の豊洲方面への利便性が上がる程度で、非常にローカルな影響しか発生させない。
この8号線よりも必要性が高いのは、新橋あたりから江東区の有明方面に向かう地下鉄の新線だが、こちらはまだまだ構想段階だ。それに現実的に考えると、今以上に地下鉄の新路線を作る必要性は薄い。むしろ、今後は存続が危ぶまれる路線さえ発生しそうだ。その原因は、人口の減少である。
東京はこれからの30年、そのサイズを縮めるダイエットを初めて経験するのだ。
1960年からの30年間のように、ひたすら膨張したのは遠い過去の話。成長が止まったにもかかわらず、大きくなろうともがいた2020年までの30年間も、記憶に残る程度となる。
榊 淳司
住宅ジャーナリスト
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