(※写真はイメージです/PIXTA)

「地方を応援する」というモットーのもと創設されたふるさと納税。過度な返礼品合戦が規制されたり、地域格差を生んでしまったりと、度々マイナス面も指摘されています。本件、問題の根はもっと深いようです。 ※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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    ふるさと納税で減った税収分の75%を補填

    当初、ふるさと納税は、自分の出身地にしか払えないような制度が議論されていました。それでは利用する人もいないのでは?ということで、誰でもどこの自治体に寄付してもよいことになったのです。

     

    自治体ではより地域の魅力を活かした返礼品を考え、仲介サイトには食品や飲料品から工芸品、家電に雑貨に観葉植物などなど、多くの返礼品が掲載されています。インターネットのショッピングサイトのような作りなので、ちょっとしたお取り寄せグルメの感覚で利用する人も多いようです。

     

    税という側面から見ると、利用者は直接的に自分の納める住民税、税金を何に使いたいのかを指定できるので、税を市場化したという意味で画期的な制度だったと考えられます。ただし現在は、返礼品にアマゾンギフト券を配ってしまう自治体も出てきてしまい、各地の魅力のアピールや日本全体の観光振興といった1々の制度の趣旨から外れているのではないか、という批判もあります。

     

    ふるさと納税には、もうひとつ税制上の問題もあります。

     

    自分がどこかの自治体を選んで納税すると、自分が住んでいる場所へ納める住民税がその分減る仕組みになっています。では、どのくらい減るのかというと、自治体によって変わります。地方交付税による補填があるからです。

     

    地方交付税を受けている自治体の場合、減った税収分の75%が補填され、実際に減る税収は25%です。地方の人たちがふるさと納税をすると、自分の住民税は控除されて、納税先の特産品が手元に届きます。そして納税者の住む自治体には失った税収の75%が政府から補填されるという、利用者と利用者の住んでいる地域にとってお得な話になります。

     

    一方、地方交付税を受けずに自律的な財政運営を行っている東京都の自治体の場合、東京都民がふるさと納税制度を使っても、補填はありません。東京の人が同じ制度を使うと、住民税の控除と特産品を手にできますが自治体の税収は補填されることなく失われるので、個人(住民)だけが得をしたことになるのです。これでは、納税者としての感覚を都市部と地方の双方で育てることは難しくなってしまいます。ふるさと納税によって、税収が減って悲鳴を上げている東京都市部の自治体も出てきています。

     

    でも、ちょっと冷静になって考えてみてほしいのです。ふるさと納税に負けてしまう程度の住民サービスしか提供できない自治体に問題があるのではないかと。自分の住んでいる自治体に税金を払うぐらいだったら、地方に税金を納めて和牛をもらった方がいいやと思われている、「その程度の住民サービスなのですか?」ということです。

     

    ふるさと納税に対して文句を言っている東京都の自治体は、住民の行政に対する信頼感や、納税者とのコミュニケーションに問題があることを見直してみた方がより建設的です。地元との関係が薄くなりがちなサラリーマン世帯にとっては、強制的に徴収される感覚はあっても納税者としての恩恵が感じられにくいものだからです。実際には様々な日常の行政サービスを受けていたとしても、それが「地方から和牛を頂くことに負ける」、その意味を行政側も一度真剣に考えてみるとよいのです。

     

    必要なのは、納税者とのコミュニケーションです。納めた税金がどのように使われているのか、無駄にしない努力がどのようにされているのか、改善点は何か、そうしたコミュニケーションがなされていれば、政府からの補填を受けない自立した財政環境にある東京都にとっては、ふるさと納税は大きな問題にならないはずです。

     

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    無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

    無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

    渡瀬 裕哉

    ワニブックス

    現在の日本の政治や経済のムードを変えていくにはどうしたらよいのでしょうか。 タックスペイヤー(納税者)やリスクを取って挑戦する人を大事にする政治を作っていくことが求められているといいいます。 本書には「世の中に…

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