生産は自動車工業など8業種が前月比上昇し、4ヵ月ぶり前月比上昇
経済産業省の生産指数・基調判断は「足踏みをしている」で据え置き
アニマルスピリッツ指標のDIは2ケタマイナスだが、2ヵ月連続前月比上昇
10月分先行CI・一致CIは4ヵ月ぶり前月差上昇に。基調判断は「足踏み」
(鉱工業生産)
●鉱工業生産指数・10月分速報値・前月比は+1.1%と、部材供給不足の影響などが緩和されたことを受けて、4ヵ月ぶりの上昇となった。季節調整値の水準は90.5で、21年8月の94.6以来の水準である。前年同月比は▲4.7%で2ヵ月連続の低下となった。
●10月分鉱工業生産指数では、全体15業種のうち、自動車工業、生産用機械工業や汎用・業務用機械工業など8業種が前月比上昇、無機・有機化学工業、鉄鋼・非鉄金属工業など6業種が前月比低下、パルプ・紙・紙加工品工業・1業種が前月比横ばいで、全体としては上昇となった。
●経済産業省の基調判断は20年4月分・5月分で「総じてみれば、生産は急速に低下している」だったが、6月分で、「生産は下げ止まり、持ち直しの動きがみられる」に上方修正された。7月分で下げ止まりが外れ、「生産は持ち直しの動きがみられる」となった。8月分では、「生産は持ち直している」に上方修正された。その後、21年7月分まで、「生産は持ち直している」で据え置きになっていたが、8月分では、19年1月分・2月分以来の、「生産は足踏みをしている」に引き下げられた。9月分と今回10月分では、「生産は足踏みをしている」で継続となった。
●先月発表された製造工業予測指数10月分は前月比+6.4%の上昇の見込みであった。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、10月分の前月比は先行き試算値最頻値で+2.4%の上昇になる見込みで、90%の確率に収まる範囲は+0.4%~+4.4%になっていた。実際には、鉱工業生産指数の前月比が+1.1%上昇になったが、これは製造工業予測指数や、試算値最頻値を1.3ポイント下回る上昇率である。
●10月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+2.0%と4ヵ月ぶりの上昇になった。前年同月比は▲6.1%で2ヵ月連続の低下となった。
●10月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比+0.8%と2ヵ月連続の上昇になった。前年同月比は+2.4%と2ヵ月連続の上昇になった。無機・有機化学工業が前月比+4.0%上昇した影響が大きい。無機・有機化学工業では、物流の事情で出荷が減少したことや、定期修理に向けた在庫積み増しなどにより、在庫が増加したということだ。
●10月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比0.0%になった。前年同月比は+5.3%と2ヵ月連続の上昇となった。
●鉱工業全体の在庫循環の動きをチェックするために、縦軸に鉱工業在庫指数・前年比、横軸に鉱工業出荷指数・前年比をとった在庫サイクル図をつくると、20年7~9月期までは「在庫調整局面」の状態にあったが、20年10~12月期、21年1~3月期では「意図せざる在庫減局面」になっていた。4~6月期では在庫の前年同期比▲5.0%、出荷が前年の反動もあり、前年同期比+18.8%と2ケタの伸び率になり、「在庫積み増し局面」に入った。7~9月期では在庫が前年同期比+0.5%、出荷が前年同月比+4.2%の伸び率になり、引き続き「在庫積み増し局面」となっていた。10月分では在庫が前年同期比+2.4%、出荷が前年同月比▲6.1%の伸び率になり、「在庫調整局面」となっている。しかし、部材調達不足による生産の減少による影響が大きいなど特殊事情もあり、目先、動向を注視していくことが必要な局面だろう。
●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると11月分は前月比+9.0%の上昇、12月分は前月比+2.1%上昇の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、11月分の前月比は先行き試算値最頻値で+4.2%の上昇になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は+2.2%~+6.2%になっている。
●先行きの鉱工業生産指数、11月分を先行き試算値最頻値前月比(+4.2%)で延長したあと、12月分を製造工業予測指数前月比(+2.1%)で延長すると、10~12月期の前期比は▲0.4%の低下になる。また、11月分・12月分を製造工業予測指数前月比(+9.0%、+2.1%)で延長すると、10~12月期の前期比は+2.7%の上昇になる。足元で、新型コロナウイルスの新たな変異株オミクロン型が発生したことで今後の動向が中止される。7~9月期は5四半期ぶり前期比低下になったが、10~12月期は前期比上昇に戻れるかどうかはまだ微妙な状況だろう。
(アニマルスピリッツ指標)
経済産業省が製造工業生産予測指数から作成しているアニマルスピリッツ指標は発表時期が約半月早まり、10月29日から鉱工業生産指数・速報値発表と同時に結果が発表されるようになった。21年6月調査結果で、アニマルスピリッツ指標(生産活動マインド指標:DI)は11ヵ月連続のプラスの数値となり、企業の生産マインドは強気の状況が続いていたが、7月~11月調査結果ではDIはマイナスになっている。11月調査結果のDIは▲10.2である。まだ、弱い数字だが、10月調査結果からは2.8ポイント改善した。これで2ヵ月連続改善となった。
(10月分の景気動向指数・速報値予測)
●10月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+1.9程度と4ヵ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列では、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、中小企業売上げ見通しDIの6系列が前月差プラス寄与に、新設住宅着工床面積、マネーストック、東証株価指数の3系列が前月差マイナス寄与になるとみた。
●10月分の一致CIは前月差+1.3程度と4ヵ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列では、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、商業販売額指数・小売業、輸出数量指数の5系列が前月差プラス寄与に、投資財出荷指数、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の3系列が前月差マイナス寄与になると予測した。
●10月分で景気の基調判断は、景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」継続になると予測する。予測通りだと3ヵ月後方移動平均は前月差▲1.47程度の下降になる。「改善」に戻るためには、「3ヵ月以上連続して、3ヵ月後方移動平均が上昇」という条件があるため、しばらく「足踏み」のシグナルが点灯することになろう。
●10月分の先行DIは44.4%程度と景気判断の分岐点の50%を下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数の4系列がプラス符号に、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、新設住宅着工床面積、マネーストック、中小企業売上げ見通しDIの5系列がマイナス符号になるとみた。
●10月分の一致DIは6.3%程度と景気判断の分岐点の50%を下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列中、有効求人倍率の1系列が保合いに、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の7系列がマイナス符号になると予測した。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年10月分鉱工業生産指数・速報値について』を参照)。
(2021年11月30日)
宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
理事・チーフエコノミスト