厚労省による「ストレスチェックリスト」の限界
厚生労働省は、「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」というチェックリストを提供しています(図表1)。このチェックリストへの回答を分析すると、メンタルヘルス不調に陥るリスクを計算することで、高ストレス者を判定できます。
ただし従業員個人の回答結果を企業に提供することは、個人情報保護の観点からできません。どの職場にどれくらいリスクを抱えている人がいるのか集計した結果(集団分析結果)を示すことしかできない決まりになっています。
この57項目から分かるのが、仕事のストレス状況です。ストレスの原因と考えられる要因には、仕事の多さ(量)、仕事の難しさ(質)、身体的負担度、対人関係ストレス、職場環境ストレス、コントロール度、技能の活用度、働きがいの8つが含まれています。また、ストレス反応に影響を与える要因として、上司、同僚、家族・友人による支援および職場と家庭に対する満足度があります。
ストレスが多くても「活発な職場」が持っている“要因”
一方、私たちは、厚生労働省57項目版以外に個人のストレス対処能力を計算することができる質問項目を加えています(図表4)。
質問の種類は、①仕事のストレス要因、②個人のストレス対処能力、③心身のストレス反応の3つに大きく分かれます。
まず、①ストレス要因には大きく増強要因と緩和要因の2つがあります。それぞれ、ストレスを増強させる要因と緩和させる要因です。仕事のストレス増強要因には、仕事量の多さ(量的負荷)、仕事の難しさ(質的負荷)、人間関係の難しさが含まれています。また緩和要因には、業務の決定権(裁量権)、業務の達成感、周囲(上司や部下)の支援があります。
増強要因によるストレスが強いからといって、そう簡単に仕事を減らしたり、人を増やしたりすることはできません。それでは、人を増やさず、仕事を減らさず、ストレスを減らすためにはどうすればよいでしょうか。その答えは緩和要因にあります。緩和要因が強ければ、結果としてストレスは小さくなります。
例えば、部下に業務を与えるときに、決定権や裁量権を与えること、すなわち仕事の進め方や仕事のペースをある程度本人に任せることで、やらされ感(主観的なストレス)がぐっと下がります。また、仕事を嫌々やらせるのではなく、目の前の仕事に興味がもてるように、意味や意義についてあらかじめよく理解させたうえで取り組ませることで、やりがいや達成感が得られ、その結果、ストレス感は減ります。
このように、緩和要因を上手にマネジメントに組み込むことで、部下や職場のストレスをコントロールすることができます。同じような量で、同じような難しさの仕事をしていながら、職場の活気が違う場合には、緩和要因によってストレスを上手にマネジメントしていることが考えられます。
次に、②個人のストレス対処能力には、自己信頼度と前向き度の2つがありますが、これについては後述します。
最後に③心身のストレス反応は、身体的不調感と精神的不調感の2つがあります。身体的不調感とは、例えば頭痛・腹痛・めまい・吐き気・胃十二指腸潰瘍・不眠・動悸などを指します。また精神的不調感とは、無気力・無感情・情緒不安定などです。ストレス要因の強さが同じでもストレス対処能力が高ければ、不調感が出ないこともありますし、出てもそれほど気にならないレベルに留まります。逆にストレス対処能力が低ければ、ストレス要因が弱くても不調感が表面化してしまうことがあります。
仕事のストレス要因の種類と強さが同じでありながら、職場の活気に違いが出る場合、個人のストレス対処能力の違いが影響していることがよくあります。ストレス対処能力が高い人の比率が多い場合、特にリーダーのストレス対処能力が高ければ、職場に活気が生まれるとともに、部下の対処能力も伸びて強くなることが分かっています。