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「すまんが、お前、手伝ってやってくれないか」の末路
私は会社員時代、化学会社に勤めており、工場の化学プラントの設計と工事の仕事をしていました。化学プラントというのは、石油精製や高分子製品の生産に用いられる工場のことをいいます。そして、私の会社では、期(6ヵ月)に一度、その前の期の業務査定があり、その結果を上司が面接という形で部下に伝えていました。
あるとき、その業務査定の面接があり、先期の業績の話が終わった後、当時の上司が私に次のようなことを依頼したのです。
「おい、永嶋。実は折り入って、お前に頼みたいことがあるんだ。研究所から、今期に、エンジニアの応援が欲しいと言ってきている。我々の本来の、工場のプラントの設計や工事の仕事とは違うんだが、断るわけにもいかないので弱っているんだ。すまんが、お前、今期は研究所の仕事に特化して、研究所を手伝ってやってくれないか」
私は、上司が研究所から圧力をかけられて困っている状況がよく理解できましたので、自分の本来のミッションではありませんが、上司をぜひ助けてあげたいと思ってその依頼を快く了承したのです。
私は、指示されたとおり、その期は研究所のサポートの仕事を集中して行いました。
そして、半年が経ち、また業務査定の面接がありました。すると、上司は非常に怒りを含んだ口調で次のようなことを言ったのです。
「おい、永嶋。お前は一体何をやっているんだ。我々の仕事は工場のプラントの設計と工事だろう。しかるにお前は、この半年間、研究所の手伝いばかりやっていた。我々のミッションをまったく理解しておらず、結果として会社に何一つ貢献していないじゃないか。まったくもって、実にけしからん。従ってお前の業績は最低点とした」
私は、この言葉を聞いて、びっくり仰天しました。とっさのことで返す言葉も見つからず、おそらく、しばらくは茫然と口を開けて上司を見つめていたのだと思います。なんと、その上司は自分が研究所の仕事を手伝ってやってくれと依頼したことを完全に忘れてしまっていたのです。
ようやく、事情を察した私は上司に対して「あなたが指示したから、研究所の仕事をやったんですよ」と何度も言いましたが、上司は自分の言ったことを完全に忘れていて、まったく耳を貸しませんでした。それどころか、私が言いわけをしていると思って、ますます怒り出す始末です。
このような指示をいちいち記録には残しませんので、上司がそのような発言をしたという証拠は残っていません。また、当時の会社のルールでは、面接での業績査定結果の通知は、最高裁の判決と一緒で、査定結果はもう決定された既成事実であり、くつがえすことができないものでした。
さらには、上司の面接や業務査定結果に対して異議を唱えるといったシステムもありませんでした。すなわち、私には泣き寝入りするしか手段がなかったのです。結局、私の先期の業績は最低点となり、ボーナスが大きく減額となりました。