(※画像はイメージです/PIXTA)

現在、新型コロナ感染拡大の影響で、在宅医療がスタンダードになりつつあります。麻酔科医から在宅医へと転身した矢野博文氏は書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』のなかで、「最期までわが家で過ごしたい」という患者の願いを叶えるために、医師や家族ができることは何か解説しています。本記事では、矢野氏の体験をもとに、終末期患者のケアについて見ていきます。

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ヘルパーやケアマネが数回変更に…93歳の独居患者

Kさんは93歳で独居の男性でした。閉塞性動脈硬化症に対する両大腿動脈のバイパス術と、狭心症に対する経皮的冠動脈形成術の既往がありました。

 

Kさんの初診にはかなりの緊張を伴いました。Kさんに関する事前情報では、相当自分勝手な性格で些細なことで急に怒りはじめ、ヘルパーやケアマネジャーを今まで何度も変えているとのことでした。

 

訪問診療も以前は当院以外のクリニックが入っていましたが、関係がうまくいかず、当院に再チャレンジの要請がありました。

 

何に対しても神経質、完璧主義的で、ヘルパーは完璧に家事ができて当たり前だと言い最近は清拭もKさんの気が向いたときにしかさせてもらえず、二年以上入浴もできていないとのことでした。

 

ただ、初診の前に訪問した看護師によると、こちらから質問すると不機嫌になり怒り出すこともあり、特に家族に関する質問は強く拒否されましたが、傾聴に努めると多弁に自分のことを話されるということでした。

 

最初は初診に伺った主治医の名刺を不審そうに見ていたKさんでしたが、はっきり物を言う主治医の態度が気に入ったのか、診察が終わるころには「信用する」の一言をいただくことができました。

 

しかし、初診直後に調剤薬局とKさんとの間で問題が生じました。毎日の服薬が容易にできるように薬剤を朝・昼・夕の三種類に分け、分類した薬剤を一緒にして一包化したのですが、その薬を裸にしたということがKさんは気に入らなかったようです。結局各薬剤を包装のまま切り離し、一包化することとなりました。

本人に自覚はないものの認知症が進んでいることが判明

初診から2カ月ほどたったころ、訪問診療中のちょっとしたきっかけでKさんが自分のことを語り始めました。戦時中は志願して海軍に入り、戦艦に乗っていたとのこと。横須賀は懐かしくもう一度行ってみたいと話してくれました。

 

また一方で、面と向かっているとあまり感じないのですが、認知症の症状が強いことが判明しました。介護保険更新の手続きを完了してカレンダーにその旨を書き込んでいるにもかかわらず、「更新手続きができていない」と主張し、短期記憶障害の症状が顕著でした。

 

本人はしっかりしているつもりでおり、そのうえ神経質で他人をあまり信用しない性格なので、ケアマネジャーをはじめ周りの人々は大変です。

 

またある日は自室内で転倒し顔面を打撲しましたが、周りの人たちがあまりにも強引に病院に連れて行こうとしたために、本人はへそを曲げて「病院には行かない!」と言い出しました。

 

結局病院受診は実現しませんでしたが、この機会に「今の一人暮らしが成立しなくなったらどうしますか?」と質問をぶつけてみました。答えは「この家で死にます。私の死に水を取ってください」とのことでした。

徐々に腎機能の悪化と心不全が進行してゆき…

Kさんの初診は3月でしたが、何とかその年は乗り切りました。しかし徐々に腎機能の悪化と心不全が進行していきました。

 

次の年の7月には両下肢の浮腫が著明となり、利尿薬の内服を開始しました。8月の暑い自室内でエアコンも使わず扇風機のみで過ごしていましたが比較的元気で、またもやヘルパーを一人解雇したとのことでした。

 

生活環境を考えて当院への入院も打診してみましたが、「絶対に嫌だ」と一喝されました。

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『改訂版 認知症に負けないために知っておきたい、予防と治療法』より一部を抜粋し、再編集したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 認知症に負けないために知っておきたい、予防と治療法

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梶川 博、森 惟明

幻冬舎メディアコンサルティング

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