「見つけることによる不利益のほうが大きい」事実
その一方、受診者1000人中、30〜40人に治療による勃起障害や排尿障害が発生、2人が重篤な心血管障害を発生、1人が肺や下肢に重篤な血栓を発生しています。さらに1000人中0.3人が治療の合併症により死亡しています。
過剰な治療を避けるため、早期の前立腺がんに対しては「監視療法」が国際的な標準治療になっています。
具体的には、3〜6ヵ月ごとの直腸からの触診とPSA検査、および1〜3年ごとの前立腺生検を行い、悪化していなければ経過観察(監視)を続けます。最近は生検の代わりに、身体への負担が少ないMRI(磁気共鳴画像装置)で代用することもあります。
欧米での大規模な研究でも、監視療法による10年生存率は、手術や放射線治療と差がないことが明らかにされています。
甲状腺がんも前立腺がんも、見つけることによる不利益のほうが大きいので、私は見つけなくてよいがんと考えています。
中川 恵一
東京大学大学院 医学系研究科 特任教授