東大病院に勤める医師、中川恵一氏は「健康診断とがん検診だけは受けてほしい」と語ります。一方で、「見つけないほうがよいがん」も存在するとのこと。同氏がそれぞれの理由について解説していきます。 ※本連載は、書籍『養老先生、病院へ行く』(エクスナレッジ)より一部を抜粋・再編集したものです。

日本でも…そして「発見不要ながん」はもう1つ存在

甲状腺がんと診断されれば、がんになったという精神的なダメージを受けることになります。また甲状腺の全摘手術を受ければ、ホルモン薬を一生飲み続けなくてはなりません。マイナス面のほうが大きいので、私は甲状腺がんの検診はしないほうがよいと言っているのです。この韓国の例は、明らかに「過剰診断」です。

 

同じようなことは日本でも起こっています。2011年の東日本大震災で原発事故が起こった福島県では、当時18歳以下だったすべての国民に甲状腺検査を行いました。その結果、200人を超える小児甲状腺がんが見つかっています。そこから、原発事故と甲状腺がんの増加を関連づける報道も見られましたが、まったくの誤解です。

 

福島の県民健康調査検討委員会も、国際原子力機関や国連科学委員会などの国際機関も、「小児甲状腺がんの多発と放射線被曝との関連性は認められない」と報告しています。

 

甲状腺がんは若い人や子どもでも珍しくありません。もともと子どもたちが持っていた害のない甲状腺がんを、精密な検査によって発見してしまったということです。韓国と同じような過剰診断が行われたのです。

 

その韓国は甲状腺がんが減少に転じています。これは2014年頃から、韓国の科学者が甲状腺がんの過剰診断に対して警鐘を鳴らし、マスコミも大きく取り上げたことが背景にあります。その後、甲状腺がん検診の受診者数はピーク時から半減し、発見者も激減しました。

 

もう1つ、前立腺がんも見つけなくてよいがんです。高齢男性に多い前立腺がんの5年生存率は、ステージⅠからⅢまでが100%で、ステージⅣを含めても98.6%です。10年生存率も全体で95.7%でした。わずかな例外を除き、前立腺がんで命を落とすことはありません。

 

前立腺がんの検診は、血液検査のPSA値(前立腺がんに特異的な腫瘍マーカー)で調べます。

 

しかしこの検査の受診者1000人中、前立腺がんによる死亡を回避できるのは、たった1人。

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養老先生、病院へ行く

養老先生、病院へ行く

養老 孟司
中川 恵一

エクスナレッジ

あの「あの病院嫌い」の養老先生が入院した!? 自身の大病、そして愛猫「まる」の死に直面した養老先生が、「医療」や「老い」「大切な存在の死」とどう向き合うかなど今の時代のニーズに合致しつつも普遍的かつ多様な書籍で…

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