(※画像はイメージです/PIXTA)

現在、新型コロナ感染拡大の影響で、在宅医療がスタンダードになりつつあります。麻酔科医から在宅医へと転身した矢野博文氏は書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』のなかで、「最期までわが家で過ごしたい」という患者の願いを叶えるために、医師や家族ができることは何か解説しています。本記事では、矢野氏の体験をもとに、終末期患者のケアについて見ていきます。

 

新しいヘルパーステーションが入ることになって何とか秋を迎えることができましたが、今度は下肢の浮腫を引っ掻き、傷から体液が大量に漏出し、そのうえ悪いことに傷の感染も起こしてしまいました。

 

抗菌薬を処方してもまともには内服してくれません。そうしている間にも腎機能はどんどん悪くなっていきました。腎性の貧血も伴っています。

 

下肢の感染のコントロールが順調にいかず一カ月ほどが経過し、これを理由に入院を勧めたところ突然激高し、診察もさせてもらえませんでした。

 

Kさんは自分の行動を非難されたと理解したようです。ケアマネジャーからは、よくあることなので気にしないようにとのアドバイスがありました。案の定、次の訪問診療も同じ医師が担当しましたが、何らトラブルはありませんでした。

ある日、往診に行くと動けなくなっていたKさん

その年の12月のある日、発熱と悪寒があるとのことでKさんから往診依頼がありました。食事はほとんどとれずベッド上で動けない状態でした。

 

訪問直後は今まで同様「入院はしたくない。ここで死んでもいい」との一点張りでしたが、一人暮らしなので尿や便が垂れ流し状態になってしまうことなども含めて、1時間ほどかけてKさんを説得した結果、私たちのクリニックに入院することを了承してくれました。

 

入院後は尿路感染症の診断で、抗菌薬投与と点滴で治療し、状態は徐々に改善しました。病棟看護師を呼びつけては大声で文句を言うものの、結局は指示どおり薬も飲んでくれる状態でしたので、早めの退院も考えられました。

 

しかし入院して3日目、解熱しているにもかかわらず食事が進まず、強い全身倦怠感を訴えました。血液検査上腎機能がさらに悪化し腎不全の状態で、早期退院は無理な状況となりました。

 

入院8日後には声を出す元気もなく経口摂取は困難なままで、大好きなオロナミンCも飲めません。全身状態はさらに悪化し、Kさんの今後をどうするのか、医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、ヘルパーが集まって話し合いを持ちました。

Kさんの息子さん「過去にいろいろあったもので…」

実現はできませんでしたが、自宅での看取りも検討されました。話し合いの中で、たとえ疎遠であっても家族がいるなら現状を家族に伝えることが必要ということになり、医療ソーシャルワーカーが家族を探すことになりました。

 

当院の医療ソーシャルワーカーが市役所に連絡すると、比較的簡単に息子さんと連絡がつきました。まずは当院へ来ていただき病状の説明を行い、今後はKさんの苦痛を可能なかぎり軽減することを治療の中心とする方針であると申し上げ、息子さんに納得をしていただきました。

 

Kさんとも面会してもらいましたが、Kさんは横を向いて顔をしかめるだけでした。息子さんは「過去にいろいろあったもので……」と弱々しく話すのみでした。

 

息子さんの面会から約1週間後、Kさんは静かに呼吸を停止し旅立たれました。息子さんはKさんに最期まで寄り添っていました。

 

最期の最期にKさんと息子さんの面会を企画したことはよかったのかどうかはわかりません。ただKさんの生命が燃え尽きようとしたときに、かかわっていた周りの人々はその方がベターであると考えたのは事実です。だからこれでよかったのだと思います。

今後高齢化が進み「多死社会」を迎える日本

今後、多死社会を迎えようとしているわが国では、Kさんのように独居で最期の時間を過ごすような人が増えると考えられます。今回は最期に家族に会っていただくという結論になりましたが、場合によっては会わない方がベターということもあるでしょう。

 

最期のときをどのように過ごすかは当然本人の意思が最優先されるべきですが、今回のKさんのように自分の意思を正直に表明できないような人もいると思われます。

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『改訂版 認知症に負けないために知っておきたい、予防と治療法』より一部を抜粋し、再編集したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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梶川 博、森 惟明

幻冬舎メディアコンサルティング

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