介護保険開始から20年…「幸せな老人」は増えたのか?
新型コロナによって「死」がより身近なものとなりました。
「ウイルスに感染したら死ぬかもしれない」とイメージすることが、自分や身近な人の「死」を具体的に考える契機になるとすれば、それは日本社会にとって悪いことではないのかもしれない。著者はそう思っています。
なぜ医師である著者が「死」のイメージを重視するのかと、疑問に思われる人もいるかもしれません。それは一言でいえば、現在の日本の高齢期・終末期の医療にはまだまだ混乱が多く、なかなか高齢者や終末期の人の「本人の希望」が叶わない現実があるからです。それによって先に逝く人だけでなく、周りの家族もさまざまに迷い苦悩して、死後にも深い後悔が残ることが多々あります。
著者はこれまで25年以上、地域医療・在宅医療に携わってきましたが、そういう事例を数えきれないほど見てきましたし、今現在もそれは続いています。
日本に介護保険制度が導入されたのが2000年のことです。
それからちょうど20年が経ち、在宅医療や終末期医療という言葉自体は、社会に広く知られるようになっています。介護保険が始まった当初に比べると、本人や家族が希望すれば、自宅や施設での在宅療養・在宅看取りも選択しやすくなりました。
この新型コロナによっても、「病院ではなく在宅で看取りを」という要望は明らかに増えており、今後もしばらくはこの傾向が続くはずです。
さらに病院の医療も、以前のように体力の衰えた高齢者に対して「何がなんでも治療する」「一分一秒でも命を長らえる」というムードは少し変化しています。痛みをとって生活の質(QOL)を上げる緩和ケアを受けられる病院や、看取りまでを行う病院も増加しています。こうしてみると、日本の高齢期・終末期の医療も少しずつですが、前進しているのは確かです。
しかしながら、実際の医療・介護の現場で、高齢者本人が本当に望む医療や看取りが実現しているかというと、必ずしもそうではありません。
高齢者の家族の意向や、従来の延長の医療・介護システムのなかで、高齢者のみならず家族や医師、医療・介護スタッフなどの関係者までもが翻弄されてしまうケースは後を絶ちません。
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