(※写真はイメージです/PIXTA)

ガソリンや灯油など石油によって精製される製品、プラスチックなど石油化学製品も私たちの生活に密着していて、世界中でも重要な化石燃料資源です。コロナ禍による需要低迷、CO2削減、環境問題…、今後石油業界はどうなるのか、国際投資アナリストが解説します。※本連載は、後藤康之氏の著書『最強の外資系資産運用術』(日本橋出版、2021年4月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

中国が日本を抜いて最大のLNG輸入国になる日

また上流下流の過剰供給、過剰設備という状況は、ガソリン価格が上昇しにくい、という面では日本国内の消費者にメリットがある一方で、国内の石油関連の消費財に関しても影響を与えている、というのは注視しておく必要があるとも思います。たとえば下記2つの例を紹介します。

 

①コロナ禍でプラスチック需要も減退し、原油安と重なったことで、原油からプラスチックを製造したほうが、リサイクルのプラスチックを活用し製造したものより、安価で効率よく作れてしまう、という現象がみられるようです。しかしパリ協定など環境保護の面ではもちろんリサイクルが推奨されるわけで、またプラスチックの国外輸出となっても、大消費地の中国は近年他国からのプラスチック輸入を規制しており、とても難しい状況に変わりはなく、国内でのプラスチックごみが増えていく一方のようです。

 

②そして人口減少から石油需要も低迷している日本市場では、石油製油所も同時に縮小傾向にあります。製油所閉鎖に伴い、石油精製の副産物を活用した炭酸ガス(ソーダ)の製造も減少しているようです。一方でコロナ禍に、在宅で安価な炭酸水を飲む機会が増えたり、従来のお中元・お歳暮に加えて、デリバリー要素の入った宅配・配送も増え、ドライアイスの活用も増加しているようです。

 

石油の動向と似たように、天然ガスも北米でシェールオイル・ガス革命を契機に、米国のエネルギーに関する国家戦略を180度方針転換させたことで、過剰供給の形が続きました。また天然ガス業界で見られた象徴的な出来事は、シェール革命では老舗の米国企業チェサピーク・エナジーが2020年6月28日に連邦破産法第11章(所謂チャプター11)を申請して、破綻整理を始めました。

 

同社は日本語で言えば“地上げ屋”に近いアプローチで、米国の優良なシェールガス権益(上流)を買い集め、そこから資源を抽出し、また投資家からも資金を集めて更なる土地・権益買収に、特化していた会社でありましたが、天然ガス価格が歴史的な低価格となったことで同社の資金調達が難航し、破綻整理へと向かっていったようです。

 

ここ最近の天然ガス市場もかなり供給過剰となっており、2020年4ー6月ごろは北米発のLNGは輸送費かけても、供給先の現地で生産される天然ガス(ここでは欧州の例ですが)より“逆さや”になるという現象が起きており、LNG輸送船がキャンセルになっているようです。一方で、既に生産を行っているカタールなどの中東は生産継続、ロシア・オーストラリアもLNG(液化天然ガス)生産を計画していたことから進める、と見られており、北米の天然ガスは“スイングプロデューサー”となっているようです。

 

また需要側は、中国が2023年には最大のLNG輸入国(それまでは日本が最大の輸入国)になり、またインドなど東南アジア・南アジアが成長の中心、ということで、各国のLNG受入れ需要がどこまで今後の伸びがみられるか、が市場の需給に関して重要な点のようです。トータルで見ると、ここ数年は石油と同じく、天然ガス市場の供給過剰は続きそうですが、需要側の増加のみならず、各国の国家戦略やエネルギー・環境政策(パリ協定など)への影響もみられるかと思います。

 

そんな供給過剰の市場でおいても、2020年7月6日に天才投資家といわれているバフェット氏がドミニオンエナジー社の天然ガス輸送・貯蔵事業を負債も含めて、97億ドル(約1兆380億円)で買収すると発表しました。これは中流事業、所謂パイプライン事業への投資なので、米国内で常時一定程度の需要があり、上流のような原油やガス価格の変動リスクを受けにくい、といわれていますが、エネルギーセクターのバリューチェーン内には面白い投資機会があるのだな、と感心しました。

 

また日本商社や銀行は、日本国内ではなく、東南アジア諸国にてLNG発電所の建設に関っているそうです。

 

この推進の裏には、現在足元で供給過剰になっているLNGの新たな消費先を作る、石炭よりCO2 排出が少ないとされるエネルギー(LNG)の提供促進、現地国家との関係強化等あると思いますが、ボトムラインとして、今までのような移動等に関する石油需要より、人口増加による電力需要増加に賭ける、という欧米石油メジャーの取り組み、方向性と同じ方を向いて、日本商社もプロジェクト遂行されている、ということかと思います。

 

 

後藤 康之
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
国際公認投資アナリスト(CIIA)

 

 

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