「サンタクロースの経営理念ってなんだろうね?」――、先輩経営者は問いかけました。「子供たちに夢を届けることじゃないですか」と応じると、返ってきた言葉は。※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。。

ぶれない経営姿勢、商品開発姿勢を顧客が支持

経営方針についても理念を受ける形で、「私たちは、パッケージを通してキラリと光る未来を創ります」と、まず新しい分野へ出る場合の原則が謳われ、次いで「私たちは、商品への想いが伝わる舞台を造ります」と顧客が吉村を選び続けてくれるための約束ごとが記され、3番目には「私たちは、挑戦して成長し失敗と喜びを分かち合う仕事場を作ります」と、失敗を恐れず挑戦できる、うきうき感と働き甲斐に満ちた職場環境を約束する、3項目にまとめられた。同友会の目指す「人を生かす経営」に不可欠な「社会性」「科学性」「人間性」がそれぞれ盛り込まれたのだ。

 

役員会に次いで、役員を含めた20人余りの幹部が集まる経営会議でも、同様に説明して論議を尽くした。6月になると中堅幹部クラスも加わる定例の目標会議を開催。このころになると経営指針は役員、幹部を中心にかなり社内に浸透してきていた。

 

吉村では毎年決算月の翌10月に、全社員が参加する経営計画発表会がある。そこで全社員に向けて、経営理念を発表した橋本氏は、社員から具体的なフィードバックがあったことから、経営指針の浸透に対して相当の手ごたえを実感した。

 

翌年には、訥弁で知られる新設の課の課長候補者が、昇格審査のプレゼンテーションで、自分の課の経営理念を文章にして経営計画書とともにとつとつと読みあげ、幹部たちを感動させる一幕もあった。そうした形で経営指針の浸透が裏付けられたのだ。吉村では各部課の経営計画書は、課長が課員の意見を汲み上げて作成する。もちろん、企業理念や経営方針との齟齬がないかきちんと精査されることは言うまでもない。これは日常業務においても、同様である。

 

例えば大手取引先から、ある人気キャラクターをコーヒーのパッケージにしたいとの申し出があった。断ると取引先との関係がギクシャクし、売り上げにも響く。といって申し出を受け入れてコーヒーのパッケージにすれば、それを店頭で売っている多くのお茶屋さんが困ることになる。

 

「お茶屋さんのパートナー」を企業理念に謳う同社は、それゆえこの話を断った。一方で、若い社員のアイデアを積極的に拾い上げて新商品として市場に投入しているほか、働き方改革において女性社員の要望をすくい上げ、育児休暇、時短勤務、さらにはつわり休暇制度なども整備、社員のやる気を涵養している。

 

このように吉村の経営理念を基本に置いたぶれない経営姿勢、商品開発姿勢は、顧客の強い支持を獲得するとともに、社員もまた自らを経営のパートナーだと自覚して積極的に業務に参画する風土を創りあげることに成功している。企画推進部の大根実次長は「経営理念の浸透はまだまだ」と厳しい評価を下すが、その着実な進展が売上高51億8100万円、経常利益1億8300万円という堅調な業績(2017年9月期)を支えており、吉村への企業評価の高さにもつながっていることは間違いない。

 

清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー

 

 

※初出:清丸惠三郎著『小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月11日刊)、肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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