室内がゴミの山でも「例外」認められず
この事例で、賃貸人側は、自力救済が例外的に許されると主張し、その事情として、
・本件貸室に入ったところ、トイレは便器にも床にも糞便がまき散らされ、山積みのゴミの下にある布団には尿が染み込んでいて、強い異臭を放ち、あちこちに弁当の食べ残しのような生ゴミがあり、腐敗臭があり、それ以上放置すると害虫が発生して建物を傷めたり、配管を通じて臭気が隣室に流れたりするおそれがあった
・また、賃借人が長期にわたり行方不明であることや、室内が異常な状態にあったことにかんがみ、玄関ドアの鍵を現状のままにすると部外者が同室に立ち入る危険もあったため鍵を交換した
・この状態を放置しておくと、害虫が発生して建物が傷んだり、隣室にも臭気が流れて賃貸が続けられなくなったりするおそれが大きく、賃貸人の建物所有権を維持することは不可能又は著しく困難であった。
ということを主張しました。
しかし、これに対して、裁判所は、
・本件貸室内の布団に尿が染み込んでいて強い異臭を放ち、弁当の食べ残しのような生ゴミがあったことを裏付ける証拠はない。
・本件処分行為の前の時点で、第三者から苦情が述べられていなかった。
・そうすると、本件処分行為の時点においては、少なくとも害虫の発生や異臭の流出は現実化していなかったと認めるべきであり、本件処分行為の前の時点において、原告による建物所有権に対する違法な侵害があったとは認められない。
として、賃貸人側の主張を認めませんでした。
また、上記理由に加えて、裁判所は、
と述べ
と判断して、管理会社の損害賠償を命じました。
裁判手続で貸室の明渡手続をする場合、どうしても一定程度(2〜3ヵ月)の時間はかかってしまいます。そのため、「このままの状態を放置しておいたら建物が大変なことになる」と焦って、自力救済に及んでしまうこともあるかもしれませんが、自力救済が認められるハードルは極めて高いのが実情です。
したがって、自力救済をすべきか否か判断する場合には、
・裁判手続を待っていたら、建物に対する重大な悪影響が避けられないという事情と証拠が存在すること
・他に取りうる手段はすべて尽くしたこと(賃借人関係者への連絡など)
という2点を完璧にクリアできる状況かをまず確認することが肝要です。
北村 亮典
弁護士
こすぎ法律事務所
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