「何の心配もない老後」のはずだった
「周りからは、“もう安心だね”って言われるんです。でも、正直に言うと、今がいちばん苦しいですね」
そう話すのは、東京都近郊に暮らす元会社員の久保田恵子さん(仮名・66歳)。大手メーカーで事務職として長年勤務し、60歳で定年退職。現在は月25万円ほど年金を受給し、退職金や貯蓄を含めた金融資産は約3,500万円あります。
「生活費は月20万円もかかりません。一人で暮らす分には、節約しなくてもやっていける。数字だけ見れば、何の不安もない老後だと思います」
それでも、恵子さんの表情はどこか曇ったままです。
恵子さんの悩みは、経済的なものではありません。離婚後、別々に暮らしている2人の子どもと、高齢の実母をめぐる問題が、心の重荷になっていました。
長男は40代半ば。非正規雇用が長く、収入は不安定です。次男は正社員として働いているものの、住宅ローンと子育てで余裕がありません。
医療費の立て替え、子どもの学費の一部、引っ越し費用の援助。一つひとつは大きな額ではありませんが、「断れない関係」が続いてきました。
さらに追い打ちをかけているのが、90歳近い母親の存在です。要介護認定はまだ受けていないものの、物忘れが増え、通院の付き添いや日用品の買い出しは、ほぼ恵子さんが担っています。
「介護って、始まる前もかなりしんどいんです。“いつか来る”のが分かっているから、気が休まらない」
厚生労働省『令和5年度 介護保険事業状況報告』によると、65歳以上の高齢者(介護保険第1号被保険者)のうち、要支援・要介護認定を受けている人の割合は、年度末時点で全国平均19.4%にのぼります。
