3.コロナ禍を経たサードブレイスオフィス利用の方向性~郊外でのニーズ拡大
(1)「テレワーク」対応としての利用
新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「テレワーク」が急速に普及している。東京都によれば、都内企業のテレワーク実施率は2021年年初の51%と比べて高まっており、9月調査では64%となった[図表12]。
アフターコロナの世界においても、「労働力(就業者)の確保」は企業にとって重要な経営課題である。企業は、「高齢者および女性就業者の雇用増加」や「外国人労働者の受け入れ」、従業員の高齢化に伴い増加している「介護離職の防止」に積極的に取り組む必要がある。
また、価値創造のためのダイバーシティ経営を推進し、就業者および就業形態の多様化が一層進む見通しである。こうした「多様化する就業者および就業形態への対応」として、新型コロナウィルス感染拡大が収束した後も、テレワークを定常的に採用する企業は多いと考えられる。
国土交通省「テレワーク人口実態調査(2020年度)」によれば、「テレワークの実施場所」として、「自宅」との回答が9割に達し、「サテライトオフィス」を上回った[図表13]。しかし、コロナウィルス感染拡大の収束後は、「自宅で執務環境を整備することが困難」等の理由から、再び「サテライトオフィス」の利用を希望する就業者は増えることが予想される。
前述の通り、サテライトオフィスの利用は、「タッチダウン(移動の合間など、短時間利用)で働く場所(67%)」や、「自宅近くで本社同様の業務(長時間利用)をする場所(53%)」との回答が多く、住宅地からアクセスのよい郊外エリアにおいて、サテライトオフィスの利用ニーズは更に高まるだろう。
(2)BCP対応、事業拠点の分散先としての利用
帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2021年調査)によれば、「事業の継続が困難になると想定しているリスク」について、「感染症(60%)」を挙げる回答が大幅に増加し、「感染症」が企業活動のリスクとして強く認識されている[図表14]。
また、内閣府「令和2年度企業防災力向上のための事業継続計画(BCP)策定・運用に関する調査・検討業務」によれば、業務継続の最も大きな課題として「施設(職場の安全衛生、三密回避)」との回答が55%で第1位となった[図表15]。
業務効率化やコミュニケーションの円滑化等の目的から、都心のオフィスビルに集約する企業は多い。一方で、BCP対応として、事業拠点の分散を図る企業もみられる。人材サービス業大手のパソナグループは、本社の管理機能を複数のオフィスに分散する取り組みを開始した※。
※時事ドットコムニュース「新型コロナウィルス対策 企業の対応」」2020年3月27日
今後、事業拠点の分散先として、郊外部に所在するサードプレイスオフィスの利用が増える可能性がある。
4.「周辺人口」から考えるサードプレイスオフィスの拠点開設エリア
前述の通り、コロナ禍を経て、サードプレイスオフィスの利用ニーズは、住宅地に近い郊外エリアで高まりつつある。以下では、潜在的な顧客数を示す「周辺人口」を確認し、サードプレイスオフィスの拠点開設エリアについて考えたい。
[図表16]は、首都圏の「郊外※」に所在する主なサードプレイスオフィス[図表2参照]を対象に、半径1キロ圏内の「周辺人口」(①「人口」、②「生産年齢人口」、③「雇用者数」、④「世帯数」)の平均値を示している。
※東京周辺18区、神奈川県、埼玉県、千葉県
サードプレイスオフィスの「周辺人口」の平均値は、①「人口46,376人」、②「生産年齢人口31,446人」、③「雇用者17,167人」、④「世帯数25,035世帯」となっている。なお、一概に比較することはできないが、食品を中心にするスーパーマーケットで3万~3.5万人、ドラックストアで1万~1.5万人、小型コンビニで4,000~5000人の商圏人口が成立要件とされる※。
※三浦 美浩 「コロナ禍の商圏縮小と必要商圏人口」販売革新 2021年10月
首都圏「郊外」の全1,424駅について、「周辺人口」(半径1キロ圏内)が、サードプレイスオフィスの「周辺人口」(平均値)を上回った駅は、約3割の398駅(東京都271駅・神奈川県68駅・千葉県37駅・埼玉県22駅)、このうち、駅1キロ圏内に拠点が未開設の駅は、156駅(東京都100駅・神奈川県27駅・千葉県21駅・埼玉県8駅)であった[図表17]。
東京都では城南および城北、多摩地区、神奈川県では横浜市および川崎市、千葉県では湾岸部等が、サードプレイスオフィスの潜在ニーズが確認できるものの、未開設のエリア(駅)が多いようだ[図表18]。
コロナ禍以降、全国的にオフィス需要が停滞するなか、サードプレイスオフィスの需要は概ね堅調である。特に、郊外では「テレワーク」対応や拠点分散先としての利用ニーズが高まっている。
他業種からサードプレイスオフィス事業への参入が増加し拠点開設も増えているが、「周辺人口」を勘案すると、依然として開設の余地は残されている。今後、サードプレイスオフィスは、郊外のオフィス市場に及ぼす影響が大きくなる可能性があり、その動向を注視したい。
吉田 資
ニッセイ基礎研究所
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