(※写真はイメージです/PIXTA)

賃貸物件において賃借人が自殺するという事件が起きた場合、賃貸人には金銭的な面で損害が発生してしまいます。この損害について、賃貸人は相続人に請求できるのでしょうか。今回は、賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、損害賠償の可否とその範囲について解説します。※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

「ワケアリ物件」となった部屋の損害が認められる範囲

1.自殺に伴う物件の原状回復費用やクリーニング代

 

まず、1.自殺に伴う物件の原状回復費用やクリーニング代については、「自殺と関連して必要となった工事やクリーニングの費用」が損害として認められ、自殺とは直接関連しない工事については、通常の原状回復の考え方が適用される、というのが裁判例の傾向です。

 

例えば、賃借人が浴室で自殺したという事例(東京地裁平成22年12月6日判決の事例)では、ユニットバスの交換費用は自殺に関連して必要な原状回復費用として全額損害として認めましたが、その他の居室に関する原状回復費用については通常の考え方(経年劣化の考慮)を採用して損害とは認めませんでした。

 

他方で、賃借人の自殺により悪臭が居室全体に漂っていたという事例(東京地裁平成23年1月27日判決の事例)では、居室全体のクロスの張り替えとクリーニング費用を損害として認めています。

 

2.将来の賃料の低下等に伴う損害

 

2.将来の賃料の低下等に伴う損害について、都心のワンルームマンションの事例(東京地裁平成27年9月28日の事例)では、自殺事件による賃料の逸失利益として

 

・当初1年間は賃貸不能期間として賃料全額
・その後の2年間については賃料半額程度

 

と判断しており、これが実務上は一つの目安となると考えられます。

 

また、以下のように、自殺事件後の新賃貸借契約の内容や物件の状況を考慮して損害金額を認定した事例(東京地裁平成23年1月27日判決の事例)もあります。

 

すなわち、この事例は、学生向けの賃貸マンションで、自殺による賃貸借契約の解約から約3ヵ月後に、もともとの契約賃料8万円から約40%減額した4万6000円で新賃借人に賃貸をした、という事例ですが、この事例では、裁判所は以下のように判断しています。

 

(1)まず、賃貸借契約解約日から新契約が締結される日までの空室期間は、もともとの契約賃料額(月8万円)は全額損害となる。                  (2)また、新契約分については、賃貸人が、マンションのその他の各貸室を、学生を対象に、賃料等合計月額8万1000円以上、賃貸期間2年の条件で賃貸していること等を総合すると、少なくとも、新契約の賃貸契約当初の2年分に加え、その翌日から学生が通常において賃貸物件を探すピークである翌年3月20日までの約5ヵ月の間の新契約の賃料等の額(月額4万6000円)と、元の契約の賃料等の額(月額8万円)との差額(月額3万4000円)については、逸失利益として認定するのが相当であり、その合計額は、98万6000円となる(3万4000円×29ヵ月)。

 

3.現場の供養費用

 

3.現場の供養費用については、僧侶手配手数料、現場供養費用として5万円の損害を認めた裁判例があります(東京地裁平成23年1月27日判決)ので、社会的に相当と認められる程度の金額であれば、自殺と因果関係ある損害として認められると考えられます。

 

※この記事は、2019年11月5日時点の情報に基づいて書かれています。

 

北村 亮典

弁護士

こすぎ法律事務所

 

 

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