賃貸物件において賃借人が自殺するという事件が起きた場合、賃貸人には金銭的な面で損害が発生してしまいます。この損害について、賃貸人は相続人に請求できるのでしょうか。今回は、賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、損害賠償の可否とその範囲について解説します。※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。
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賃借人が自殺…大家は損害を遺族に請求できるか
【賃貸物件の大家からの質問】 私の所有する賃貸物件で、貸室内で賃借人が自殺するという事件が起きてしまいました。かなりの悪臭が部屋全体に残ってしまっていましたので、次に貸し出すにあたって、クロス等の全面張替えやクリーニングをする必要がありました。また今後は、自殺を告知するので、賃料も安くして貸し出さざるを得ない状況です。 これらの損害について、賃借人の相続人に対して請求することは可能でしょうか。
【説明】
賃貸物件で、賃借人が自殺するという痛ましい事件が起きてしまった場合、上記のように、賃貸人には金銭的な面で損害が発生してしまいます。
人が自殺に至ってしまう事情は様々あり、また、残された遺族にとっても辛いこととなりますが、この自殺に伴って発生する賃貸人の損害については、賃借人の相続人に請求できるとするのが裁判例の傾向です。
その理由は、
「賃借人は、本件賃貸借契約に基づき、賃貸人に対し、原状回復義務を負っていたところ、これに付随する義務として、自然減耗以外の要因により目的物件(本件貸室)の価値が減損することのないように本件貸室を返還すべき義務を負っていたものと解される。そして、社会通念上、自殺があった建物についてはこれを嫌悪するのが通常であり、その客観的価値が低下することは当裁判所に顕著な事実である。そうすると、賃借人には本件賃貸借契約に基づく原状回復義務に付随する義務の債務不履行があったといわざるを得ない。」
「賃借人の遺族からすれば、賃借人を失ったことによる精神的打撃に加えて損害賠償を求められることになり、苛酷な状況におかれることになるが、法的にはやむを得ないと考えられる。」(東京地裁平成22年12月6日判決参照)
とされています。
この自殺に伴う賃貸人の損害としては、主に以下のものがあげられます。
1.自殺に伴う物件の原状回復費用やクリーニング代
2.賃料の低下に伴う損害
3.現場の供養費用
そして、これらについて、どの程度まで損害として認められるか、という点が裁判では問題となります。