「隣家の70代男性がうるさくて眠れない」と苦情…認知症か?と医師が訪問すると【専門医が解説】

「隣家の70代男性がうるさくて眠れない」と苦情…認知症か?と医師が訪問すると【専門医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

厚生労働省「平成29年版高齢社会白書」によれば、2020年度の認知症の推定患者数は600万人超、65歳以上の有病率は約6人に1人の割合となりました。しかし増加する独居者は、症状がかなり進行するまで発見されないこともままあります。早期発見を目的として、医療法人昭友会・埼玉森林病院院長の磯野浩氏は「住まいへの訪問」に取り組んでいたのですが、そこでは…。

当時の取り組み…「玄関先で怒鳴られる」などの壮絶

私は当時、母校・昭和大学の附属病院に勤務しておりましたが、病院のある品川区の大井保健センターと連携し、そうした高齢者の保健事業に関わる機会を得られました。当時の正式名称は「老人精神保健相談」といい、精神科領域の疾患の可能性がある高齢者を必要な医療へつなげる、というのが私の仕事でした。

 

1ヵ月に1回、地域住民や民生委員、警察などから区に情報の入った高齢者に対して、保健師とともに住まいを訪問し、精神科医の視点から相談に乗り、必要な医療や介護につなげるという仕事です。家族と同居していても医療機関へ行きたがらないというケースもありますので、第三者だけでなく本人や家族からの相談にも応じていました。

 

医師が直接、住民の住まいを訪問するのは当時全国でも珍しかったのではないかと思います。また高齢での有病率が高いといわれる精神疾患を専門的に診られるということで、品川区からは非常に頼りにされていましたし、私もやりがいをもって取り組んでいました。

 

この訪問では、ケーキと紅茶を出していただけるようなお宅から、天井近くまで積まれたゴミの山をかき分けながら進むようないわゆるゴミ屋敷まで、本当にいろいろなお宅を訪問し、さまざまな精神疾患を有する高齢者を診察してきました。すべてのケースで歓迎されるわけではありません。玄関先で怒鳴られ追い返されることもありました。

 

しかし、高齢者がどんな場所で、どのように生活しているのかは、病院の狭い診察室にいるだけでは決して分からないことです。

 

一見、しゃきっとして何も悪いところなどなさそうに見える方が、洗いものや洗濯ものが放置され腐った食品が床に転がっている……といった環境で生活していたり、暴力的で言葉遣いが荒くても、家の中はこざっぱりしていて生活態度にも病的な問題はなかったり、といったようなことも多々あって、「人は見かけだけで判断できない」と思い知りました。

 

これを診療に当てはめれば「5分程度診察室で話をするだけで分かることなど、たかが知れている」ということです。

 

この経験を通して「実際に生活している場を見て、生活を肌で感じること」がいかに病気を見抜く目を養うのに重要かを知りました。私にとってたいへん貴重な経験となりました。

次ページ近隣住民から「あの人の様子が…」訪問してみると

※本連載は、磯野浩氏の著書『認知症診断の不都合な真実』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

認知症診断の不都合な真実

認知症診断の不都合な真実

磯野 浩

幻冬舎メディアコンサルティング

超高齢社会に突入した日本において、認知症はもはや国民病になりつつあります。そんななか、「認知症」という「誤診」の多発が問題視されています。 高齢者はさまざまな疾患を併せ持っているケースが多く、それらが関連しあ…

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