このケースでは、差止は認められるのか?
(1)共同利益背反行為といえるか、具体的事情から考える
このケースでは、共同利益背反行為該当性が問題になります。
マンションの構造としては、居住部分の割合が多く、主として居住用のマンションと考えられる上、居住部分と店舗部分が隣接しており騒音や悪臭等の弊害が生じやすい構造になっています。
また、業種に関しても、居酒屋であり、酔っぱらった客による騒音、悪臭、衛生上および安全上の問題等のトラブルが生じやすい業種です。
以上からすれば、居住者が帰宅し睡眠等をとり始める22時以降における営業に関して、居住区分所有者の被る不利益の程度は大きいといえます。他方で、当該マンションの他の店舗が22時までの営業時間制限を遵守していることや近隣の店舗の営業時間がおおむね22時までであることからしても、22時以降の営業の必要性は低いといえます。
また、営業開始から1ヵ月程度と素早く対処しており、事実上、22時以降の営業が許容されていたという事情もうかがわれません。
(2)営業の必要性の小ささと居住者の被る不利益の大きさ
したがって、営業の必要性と居住者の不利益の程度を比較衡量すれば、居酒屋としての営業が共同利益背反行為に該当する可能性が高いといえます。参考として、居住部分を税理士事務所に転用し事務所として使用していたところ、事務所としての使用禁止請求が認容された事例【東京高判平成23・11・24判タ1375・215】も存在します。
よって、違反者に対し、共同利益背反行為に該当するとして区分所有法57条または管理規約に基づく差止請求が認められる可能性が高いといえます。
香川 希理
香川総合法律事務所 代表弁護士