営業停止を求めても、裁判で「棄却された事例」…
店舗営業時間制限の裁判例における具体的考慮要素は、おおむね以下のとおりです。
(1)当該マンションの構造、建築基準法上の用途制限の有無、建築証明書記載の用途
(2)違反営業者の使用態様、従前の使用態様からの変化
(3)違反営業者の業種
(4)違反営業者の実営業時間
(5)違反営業者の営業開始時期
(6)当該マンションの管理規約における営業制限等に関する定め(原始規約からの変遷とその理由を含む)
(7)当該管理規約の遵守状況(規範性の有無、当該マンションの他の営業者の実営業時間等)
(8)周辺地域の環境(同種店舗の多寡、教育施設の有無等)
(9)近隣の飲食店の閉店時間
(10)規約の周知や是正申入れ等の段階的手続およびその適正さ
(11)違反営業による実害の有無、大小
共同利益背反行為該当性を肯定した例として東京地裁平成21年12月28日判決(判秘。午後11時以降の営業を禁止した事例)があります。否定した例として前掲・東京地裁平成19年10月11日判決(判秘。午後10時以降の営業禁止を求めたが棄却された事例)があります。
両事例の判断においては、以下の相違点が見受けられます。マンションの構造に関して、前者は主として居住用建物として建てられたものですが、後者は店舗部分の占める割合が多い上に、居住部分と店舗部分の間となる3階部分全体が広場となっている、店舗と居住部の入口が分かれているなど営業による騒音等の弊害が生じにくい構造になっています。
また、周辺環境等に関して、前者は夜間が静謐(せいひつ)な住宅居住地域にあり周辺の店舗も同様の営業制限を設けていますが、後者は駅の程近くに立地し隣接店舗の相当数が深夜帯の営業をしています。
さらに、管理規約の遵守状況に関して、前者は違反者に申入れをし、管理規約の趣旨を明確にするため暫定店舗規則を定め、営業禁止時間を明記するなどして営業制限に関する規範性が認められますが、後者においては営業制限に関する決議は無効(法31条1項後段の承諾なし)であり規約が存在していません。