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自営業の父は、多額の借金を残したまま…
「ギャンブル好きの父が、多額の借金を残して…」
「赤字会社の社長が突然…」
世間ではこのような話をよく耳にします。被相続人に負債がある場合、法定相続人は「相続を放棄する」という選択をすることで、被相続人の借金返済を免れることができます。しかし状況によっては、相続人が相続放棄することで、親族に思ってもみないトラブルが降りかかる可能性もあるのです。
ここでは事例をもとに、相続放棄の注意点について解説します。
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ある日、会社員のAさんのもとに、救急病院から一本の電話が入りました。それは、Aさんの父が出先で倒れて救急搬送され、急逝したという知らせでした。
Aさんは就職して以降実家を出ており、父とはあまり交流していませんでした。父は高齢でしたが、長い間健康食品販売の自営業を営んでおり、食べるに困るようなことはない、子どもにお金の心配はかけないから大丈夫だ、と常々口にしていました。
ところがです。父の遺品を整理したところ、複数の金融会社から借入があることが判明しました。一社あたりの借入金は数十万円から数百万円で、合計すると、一般的なサラリーマンのAさんにはとても払い切れないものでした。父が暮らす狭いマンションは借家で、借金を相殺できる資産は何もありません。
Aさんの母は数年前に亡くなっており、ほかにきょうだいもいません。この負債をひとりで相続したところで払えないため、Aさんは相続放棄を決意しました。
相続を放棄するためには、家庭裁判所での手続きが必要です。Aさんは専門家の手を借りることなく、書籍などを参考に必要な書類を集め、ひとりで手続きを進めました。
手続きはかなり面倒でしたが、なんとか無事に終わりました。
これで区切りがついたと安心していたある日、Aさんのところに電話がありました。
「はい、もしもし…?」
電話してきたのは、父方の叔父でした。
「おい、なんで兄さんの借金を俺たちが背負わなきゃならないんだ、説明しろ!」
「えっ?」
「だから、なんで俺たちが兄さんの借金を払わなきゃならないんだ!『Aが相続放棄したから』って、こっちに借金取りが回ってきてんだぞ!」
きちんと相続放棄の手続きをしたのになぜ? どうして父の借金は帳消しになっていないのか、そもそもなんで叔父さんたちのところへ? Aさんはあわてて近所の司法書士のもとに駆け込みました。
「自営業だった父が、かなりの借金を残したまま亡くなりました。父の借金のことは、何も知りませんでした。このような状況では相続放棄しか選択肢を思いつかなくて、自分で手続きを行ったのですが、叔父から突然電話があって。借金の請求が、3人いる父方の叔父たちのところへ行ってしまったようなんです。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか? 私はちゃんと手続きしました」
Aさんが一気にまくしたてると、司法書士は落ち着いた声で説明を始めました。
「じつはAさんのようなケースは、相続において気をつけないといけないことのひとつなんです。ひとり息子が相続放棄をしてしまうと、相続関係に変化が起こってしまうからです」
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