がんに対する積極的な治療ができなくなってしまったり、患者さんやその家族が治療を希望しなくなったときに、よく使われる言葉として「BSC(Best Supportive Care)に移行する」というものがあります。今回は、医療法人あい友会理事長の野末睦氏が、痛みの緩和だけではなく、生活の質(QOL)の向上にも役立つ「BSC」の具体的な内容について解説します。

「痛みの緩和以外」に在宅医療ができる5つのこと

1:緩和口腔ケア

食事や水分を十分に取れなくなると、口のなかが汚くなりがちです。そのような状況で、患者さん自身が歯を磨くということのほかに、医療従事者やご家族が口のなかを綺麗にする事を口腔ケアといいます。

 

口腔ケアを適切に行うと、まずは口腔内の乾燥が緩和され、喉のヒリヒリした痛みなどが緩和されます。

 

患者さんはどうしても口を開けて呼吸することが多くなりがちです。加えて酸素投与などの場合には、その「風」により口のなかはますます乾燥するため、口腔ケアは保湿の役割も果たします。

 

また、口のなかを綺麗にすると、いわゆる口腔内の雑菌が減るため誤嚥(ごえん)性肺炎を起こしにくくなります。後述しますが、体力がなくなってくると飲み込みの機能が衰え、誤嚥しやすくなるので、その場合でも肺炎にならないようにするために、口腔内を綺麗にしておくことがとても大事です。

2:緩和リハビリ

がんが広がってきて、栄養状態も悪くなってくると、患者さんは痛みもさることながら、体のだるさを訴えることが多くなってきます。

 

このようなときには、マッサージや関節の運動を行うことが最も効果的であり、ここで活躍するのが理学療法士です。

 

専門的に、四肢の運動を加えると、心地よさが広がっていきます。トレーニングではないので激しい運動は行いませんが、ストレッチ、マッサージが中心となるものです。

3:摂食・嚥下、栄養サポート

体力がなくなってきたり、意識が朦朧としてくると、飲み込む力が衰えてきます。

 

また、味覚も変わり、食欲も低下して、なかなか食が進みません。がんで亡くなる方の多くは、栄養障害で亡くなるといわれておりますので、この嚥下機能と食欲の低下に対する方策を考えることが、とても大事になります。

 

食事のときの姿勢、食事の形態、栄養補助食品の紹介など、この摂食・嚥下に関する情報提供と、効果ある対策の実践は、やはりとても大事なことになります。

4:語らいの場の提供

そして最後に、とても重要なBSCがあります。それは語らいの場の設定、提供です。

 

患者さん同士の語らいの場として、「マギーズハウス(※)」が有名ですが、そのような機能を果たす仕組みを色々と考えていきます。

(※)マギーズハウス(マギーズセンター):「がんの治療中でも、患者ではなく一人の人間でいられる場所と、友人のような道案内がほしい」という創設者の願いから、1996年に英国で誕生。今では英国内に20か所以上、香港やスペインなどへも広がっており、2016年、日本で初めて東京にオープン。

 

たとえば、家族の間で感謝の言葉を伝え合う環境をつくることや、在宅医が訪問したときには、できるだけ時間をとって、その患者さんの人生について語ってもらいます。家のなかにある飾り物や写真を話題にすることもしばしばです。

 

このようなプロセスを経て、患者さんはご自分の人生を肯定的に捉えるようになります。

5:法的な事柄の整理

場合によっては、遺産相続について、後見人についてなど、法的な相談に乗ることもあります。もちろん、医療機関が行うことではないのですが、なかなかこのようなことを相談できるところまでたどり着いていないのが実情です。

 

在宅医も大まかな知識を備え、患者さん、あるいはその家族からの質問に、答えることも必要になります。

 

このように、がんそのものの治療は終えたとしても、より良い生活を送るために、さまざまな工夫があります。BSCこそが在宅医療の出番であるといえます。

 

 

野末 睦

医療法人 あい友会

理事長

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録