(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化が進むなか、老人ホームや介護施設で「最期」を迎える人が増えています。そんな高齢者施設、「あまり良いイメージを持っていない」という人も多いでしょう。実際に施設に行くことも多いという、医療法人あい友会の野末睦理事長がその実情を紹介します。

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在宅医療=自宅での療養だけではない

少し前まではあまり国民の間で理解が進まなかった「在宅医療」という言葉が、ここ数年、特にこの一年で、かなりポピュラーになってきました。

 

その一番の要因としては、自分の「死」あるいは「最期」というものを、真剣に考える重要性に気がついた人々が多くなってきたということだと思いますが、最近のこととしては、新型コロナ感染症での自宅療養者の急増に伴って訪問診療医の出番が増え、その存在が認識されたこと。またとても悲しく、残念な出来事ではありますが、埼玉県で訪問診療医が猟銃で射殺されてしまったこと、なども大きな影響を与えているように思います。

 

そして、このような場面を通じて、皆さんの間に定着しつつある在宅医療のイメージとしては、「自宅」での療養ということではないかと思います。

 

しかしながら、「在宅医療」という言葉には、「自宅」ばかりでなく、いわゆる「施設」に入所されている人への医療提供も含みます。さまざまな患者さんを、原則として断ることをせずに受け入れている訪問診療を中心としたクリニックの多くでは、施設入所者への在宅医療の提供が7割から8割。自宅療養者への医療提供が、2割から3割のことが多く、人数的には、施設入所者への訪問が圧倒的に多いのです。

 

そのような割合でありながら、どうして在宅医療というと、自宅で療養している方への医療提供のことや、自宅で療養している人の物語が語られるのでしょうか。

 

1つ目の理由としては、自宅の場合は、在宅医療で療養することのメリットである、家族との関係や思い出、過ごしてきた家にまつわる思い出などとともに、心休まる療養生活をおくることができ、それを携わっている医療従事者も共感しながら体験できるということがあるでしょう。いわゆる在宅医療の醍醐味を、患者さんやその家族も、そして医療従事者も感じ取ることができるので、物語として語ることができやすいのです。

 

2つ目としては、自宅と施設の療養者の疾患構成が大きく異なるということだと思います。自宅で療養する人には、がんの終末期の人が多くいます。がんの場合は、最後の最後まで、普通にコミュニケーションを取ることができたり、ある程度動くことができたりして、家族とも、医療従事者とも、親密な関係を築くことができます。そして、自宅での療養期間は意外に短く、わたしのクリニックでは、私達が診療を開始してから1ヵ月以内に60%の方がお亡くなりになり、3ヵ月以内には90%の人が亡くなるってしまうのです。ですから、家族も介護休暇を取得するなどして、この期間に献身的に介護することができるのです。

 

ところが、認知症や脳梗塞などの脳血管疾患に罹患したあとの療養では、療養期間が長期にわたるのみならず、介護する側の負担もとても大きくなります。認知症による徘徊に対応したり、排泄の世話をしたりと、がんの終末期の方の場合より、格段に手間がかかります。ですから、このような疾患の方は、自宅で療養するよりは施設に入所して、療養を続ける場合が多くなります。このような疾患の方の場合は、コミュニケーションを取るのに困難な場合が多く、そのためにストーリーを語りにくく、必然的に書籍やマスメディアなどで取り上げられにくくなってしまうのではないでしょうか。

 

また、家族を施設に預けている人の中には、いまだに自分たちで面倒を見ずに施設に預けてしまっていることに罪悪感をもってしまっている人がいるのも事実です。また、施設そのものにたいしても、家族に見捨てられた人々がやむを得ず入っているところだといった偏見を持っている人も少なからずいるでしょう。また訪問診療医の中には、施設に入っている人への訪問診療には、必要最小限の時間しかかけず、その人の人生などにはできるだけ関わらないようにしようと考えている人もいるのかもしれません。

 

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