心からお客様を大切にするには、まず数字の呪縛から逃れるしかないと考えた。「売上を気にするな」と伝えるだけでは、人は数字の呪縛から自由になれない。下した決断は「ノルマ廃止」。その結果は。※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

お客様に本当に合う道具が何かを考える

ノルマによる売上達成ではなく、笑顔による売上向上を目指そうと決意しました。逆説的ですが、従業員たちが目の前のお客様の笑顔だけを大切にして販売できたなら、数字の管理などなくても売上は上がっていきます。従業員が店の都合をまったく気にせず、来てくれたお客様の満足だけを考えてくれる店があったら、僕なら必ずその店のファンになると思ったのです。

 

そもそも料理道具は、売って終わりの消耗品ではありません。お客様のライフスタイルに密着した、とても大切な食生活のパートナーなのです。

 

ご購入後に使っていただいて、やっとスタート地点。そして、「なんていい道具にめぐり合えたのか」と、最高に嬉しい気持ちで料理をしてもらい、食べて幸せと喜びを感じてもらうところが目的地です。もし、ご購入いただいたものがライフスタイルに合わないものであったら、がっかりさせてしまいます。

 

たとえば、どんな料理でもおいしくなる魔法のA鍋とB鍋があるとします。

 

A鍋は高価な上に、重くてお手入れがたいへんです。しかし、煮込み料理を最高においしくつくれます。

 

B鍋はリーズナブルな価格で、とても軽くお手入れも簡単です。ただ、焦げつきやすく、料理をするのにコツが必要です。

 

そこに、華奢で小柄なご婦人から「お値段は高くてもかまわないので、私にぴったりの鍋が欲しい」と相談されたとしましょう。

 

あなたなら、高くて重いA鍋を売りますか? 
それとも、安くて軽いB鍋を売りますか?

 

ノルマがあったら、A鍋を売りたくなりそうです。しかし、ノルマがなければ、ご婦人の華奢で小柄な体格に合った軽いB鍋をおすすめできるかもしれません。

 

ノルマがなければ、お客様に本当に合う道具が何かを考えるチャンスが生まれます。

 

いったい誰が使うのか?
どれくらいの頻度で使うのか?
どんなキッチンで使うのか?

 

質問を重ねて、より一層の満足を感じてもらえる道具を導き出せるのです。

 

ノルマは靄のかかったサングラスのようなものかもしれません。初めは見えにくさを感じても、いずれは慣れていきます。そして、お客様をノルマを通して判断するようになってしまいます。

 

それが怖いのです。

 

とはいえ、売上がなければ経営は成り立ちません。売上が伸び悩んだときは、「ノルマをつくったほうがいいのではないか?」 と不安に思う自分もいました。それでも、やせ我慢をしてでも従業員たちを信じる道を選びました。

 

従業員たちがノルマによる販売ではなく、お客様が抱くニーズの本質を探して販売してくれれば、お客様の満足度は高まります。そうすれば、飯田屋を信頼してくださるお客様が増えるはずです。

 

そうした評判が評判を呼び、お客様が飯田屋を信じて何度もご来店いただけて、愛してくださる商いを目指します。どんな繁盛店も、一人ひとりのお客様が何度も来てくれる積み重ねなしに生まれるはずはありませんから。

 

だから僕は、従業員たちに自信を持って「売るな」と言っています。目の前のお客様の話をしっかり聞き、何がその人にとって必要なものかを理解し、道具を「つなぎあわせてほしい」と伝えています。

 

 

飯田 結太
飯田屋 6代目店主

 

 

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

効率度外視の「売らない」経営が廃業寸前の老舗を人気店に変えた。 ノルマなし。売上目標なし。営業方針はまさかの「売るな」──型破りの経営で店舗の売上は急拡大、ECサイトもアマゾンをしのぐ販売数を達成。 廃業の危機に…

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